垂れ流しのゲロ

コミュ障が見知らぬ他人100人と会話するリハビリ日記

似ている二人 15 1

風邪もすっかり完治し、平日がやってきた
外から心地好い雨の音がする

工事の影響か、ベランダへ通じている窓が今までにない程汚れている
何だか、おたまじゃくしの皮膚の表面みたいだ
まだ工事期間なのですぐにまた汚れるだろうと思い洗わずカーテンを閉めた

暗くなった部屋
このまま映画を観ようと思った
観る作品は京極夏彦の「姑獲鳥の夏
原作は読了済みだ
ベッドの上でうつ伏せになって観始めた

白黒の風景写真が続々と表示され始まる
登場人物が一通り出揃った
探偵 榎木津礼二郎役が阿部寛
木場修太郎役は宮迫博之だったが、阿部寛は余りにも落ち着き払っており、破天荒なあの探偵像とは程遠く
宮迫博之は映る度に例の顔と手の動きを駆使したあの奇怪な動きが脳裏を掠めた
京極夏彦の作品が醸し出す妖気めいた雰囲気をあの手の動きで左右に掻き乱されている気分だった
妖気はすっかり雲散霧消した
真四角の顔をした刑事は遠藤憲一が嵌まり役だろうと
小さな不満を抱きながらも観続けた

固定カメラを使ったシーンが多く、効果音は時代を感じさせる
後半では、久遠寺涼子の母 久遠寺菊乃が原作とは違った結末を辿り
涼子に蹴られ、ぴぎぃと潰された蛙のような声を出しながら背中から地に倒れる菊乃は
久遠寺家にかけられた呪い「蛙の赤子」を彷彿とさせる

醜く、恐ろしい物だと畏怖の念を抱き
赤子に非人道的な行いをしていた久遠寺菊乃
その彼女自身が不細工な鳴き声を発しながら転倒する様は見事なカタルシスであり
これは原作にない良い点だ

観終えた感想としては
スタッフ側が用意した映画でこそ映える演出
遊び心に気付けた事に少し得意気になれたので
映画「姑獲鳥の夏」の最終的な印象はそこまで悪くならず
近々「魍魎の匣」の方も観てみる事にした


そういえば、インタビュー活動で知り合った人と少しだけ京極夏彦の作品について話した事がある
どれくらい前に話した人なのか調べた
私は人と話す際には記録としてボイスレコーダーを使い
「あめんぼあかいなあいうえお」と発声練習をする
会話を終えた後にその記録に話した人物の名前を入れるようにしているのでこういう時に便利だ
どうやら去年の九月頃に話した人らしい
思ったよりも昔で、活動を始めて15人目に話した人だ

名前をヒトデ(仮名)としよう
ヒトデさんは三十路の女性なのだが、三十路とは思えない程
良い意味で少女らしさが残っている人だ
ヒトデさんも前の記事で書いたオンナさんと同様
過疎な配信サイトで時折配信をしていた人だ
去年、私が初めて彼女と話した時はまだ三十路ではなく
三十路になったらちゃんとした大人としてネットから離れ
配信も辞める心積もりだったようで
宣言通りいなくなり連絡も取れなくなった

彼女は接しやすく、立派な考えを持っているが少々抜けたところがあった
私が返答に窮していると
「困ってる」「考えてる」と少しだけ楽しそうにしながら口にした
そして彼女が悩んでいる時は決まって「うーん」という
ただの「うーん」ではなく、とても可愛らしい「うーん」が出る
普段は落ち着いた大人びた声なのだが、くしゃみをする時は何故か声が高くなり
普段よりも聴き心地が好い声が出る
基本しっかりしている人なのだが、そうした抜けた部分がある
隙というのだろうか
隙がある人は魅力的というが彼女にはその言葉がよく当てはまっているように思える

私が初めて話した時はアイスランドから帰ったばかりのようで
アイスランド土産の琥珀の話をしてくれた
琥珀が樹液から出来ている事を知って驚いた
私も負けじと琥珀に似ている昆虫を教える
マダラカマドウマという虫を教えたら画像検索したらしく
「気持ち悪ーい!」ととても良いリアクションをしてくれた

ヒトデさんは綺麗なボブカットをしており
森見登美彦 著書「四畳半神話大系」の登場人物
「明石さん」に雰囲気がとても良く似ていた
ヒトデさんからは上流階級の匂いがし
尋ねてみると「私は違いますけど友達はそうです」との事だった
どちらにせよ育ちが良い人という認識は変わらなかった
私が彼女は育ちが良い人と確信した出来事がある
京極夏彦の作品に登場する榎木津礼二郎という破天荒な探偵の話になった際に
榎木津礼二郎さんは~」と小説上の架空の人間に対して「さん付け」をしたのだ
これには驚き、やはりこの人はただ者ではないと確信した
もしかしたら榎木津礼二郎という人間が眉目秀麗の美男子という設定で
好きな人物だから「さん付け」なのではないかと考えもしたが
榎木津礼二郎以外にも癖の強い登場人物は多く
その全員に分け隔てなく「さん付け」をしているヒトデさんがいとも容易く思い浮かんでしまうのでその可能性は捨てた
まあ、もしそうだとしてもだから何なのだという話なのだが…

本の話もした
ヒトデさんが好きなムーミンの本や
面白そうな本を幾つか教えてもらった
その一つに坂田靖子 著書「時間を我等に」という物があった
作品集のような物で、不思議で難解な本だった
読み終えた後に調べてみると
マルセル・デュシャンサルバドール・ダリ等の作品が上手く組み込まれている
美術的教養があるとより楽しめる本のようだった

ヒトデさんは学生時代
授業を受けず保健室で本ばかり読んでいたと私に話してくれた
同学年の女子生徒数人と何かあったようで
もっと勉強しておけば良かったと溢していた
続けて「大人はみんなこの台詞を言うよね」と言っていた
私も教養のなさを気にしているので
「子どもだって言いますよ」と返したら笑ってくれた
何だか悪い気がして
学生時代の話を余り掘り下げられなかった事を少し後悔している

どうしてヒトデさんは学生時代の事を話してくれたのかと考えると
そういえば私が年齢を教えたからだった
17才と明かした時は大変驚いた様子で
それからしばらくの間は数分に一度
「偉い」「すごい」と頻繁に口にしていた
確か、その前に頻繁に口にしていた言葉は
「どこがコミュ障なんですか」だった
年齢を明かす前、話し始めて数十分に一度は言われていた
話した人が20人にも満たない頃
まだ「コミュ障」を盾にしていた頃だ
ヒトデさんにコミュ障を治す為にという理由でかけたからそんな事を言われたのだ
そして、その日を境にコミュ障という言葉に頼らなくなった
未だに敬語には頼りっぱなしだが
一つ、問題が減ったのはヒトデさんのお陰だ

ヒトデさんは清廉潔白に生きているようで
純粋さを感じる事が多い

祭りの話になった時、私が祭りに行く約束をして結局行かなかった話をした
何人か来るからおいで、くらいの軽い話だった
ヒトデさんは少し笑いながら「クズですね」と言った
その通りだと思ったし、ヒトデさんも笑っていたのでまったく気にしていなかった
九月から十月に変わった次の日の朝
ヒトデさんから連絡が来ていた
クズと言った事をすごく気にしていたようで内容は謝罪文だった
その文から誠実さという物を強く感じた

夜更け、ヒトデさんと話している時に空で月を囲むようにして虹が掛かっていた
そんな虹見た事ないと言うので写真を撮ったが上手く映らなかった
数日経った次に話した時、あの時見た虹は暈という物らしく
虹は空気中の水分が反射して出来る物
暈は氷が反射して出来る物でと話しているとパシャリという音を耳にした
どうやら調べてそのページを撮ったようだった
「初めて知った、わざわざ教えてもらったから」と言っていた

自分がした失言、してもらった事に対して大袈裟というか
本当に誠実で魅力的な人だと思うばかりだった

年齢を明かしただけで、ヒトデさんは私の事を学生だと思っている
こういう、話せば私の理解者になってくれるだろうなという人に程
身の上話をする事が卑怯な事に思えて仕方なく、する事が出来ない
私が身の上話をする時と言えば
問い詰められて誤魔化せず、言い訳をするかのように話し出す時だけだ

そういえばヒトデさんと似た
私が直接言葉で身の上話をした数少ない人がいた
その人の事も書いておこう
ヒトデさんとあの人は同じ記事で纏めておきたい


名前はミドリ(仮名)とする
二十代後半か三十代前半の男性で
私がインタビュー活動を始めようと思い一番初めに話した人物だ
ミドリさんも時折過疎サイトで配信をしている人で
もう度肝を抜かれる程に饒舌な人だ
何度か話した内、夕方から話し始めて夜まで10時間続けて話した事が一度だけある
私はあの時の記憶が殆どないが恐らく相槌をする機械と化していた事だと思う
私が音楽の元ネタを知っている事にテンションが上がる彼
漫画の話、後半はもう布団を被りながら話していた事
会話を終えた後はまるで電池が切れてしまったように眠りこけた事はしっかり覚えている

何故そこまでの長時間話し続けられるのかというと
彼が情熱的な人間だという事に他ならない
情熱的と言っても「熱くなれよ」が口癖の元プロテニスプレイヤーや
口許に薔薇を加えて耳許で愛を囁くといった情熱の在り方ではない
もっとこう、身体の芯の底で煮え滾るマグマのよう
肯定の言葉を簡単には信用しないで飲み込む事をせず
表現という物を工夫するよう意識を働かせ
マグマが大分高い頻度で上昇し
口から出る言葉にはその熱がこもり
中々対等に渡り合える熱量を持った活火山が現れず
最早期待は捨て存分に登山者へと容赦ない量の火の粉を振り撒き浴びせる

僻地に鎮座する活火山
そんな男だ
かなり好き勝手に書いたが私はそういう男だと思っている

ミドリさんは学生時代放送研究部だったようで
そのお陰か少しの水分だけで何時間も保ち
喋り続けていられる常人離れした体力を持っている
ミドリさんと初めて話した時は屋上から掛け
屋上にいる事を何故か酷く驚いていた、それだけの記憶しかない
初めてSkypeを使って人と話したから終始緊張していた気がする
私が好きなアーティストの歌詞が抽象的なので
知識人に見せたらどんな解釈をするのか楽しみにしていた事を思い出し
ミドリさんに見せると私が考えもしなかった事を次々口にするので
とても新鮮でもっと色々聴いて貰いたいと思った記憶が強く残っている
ラップミュージックについて話せる数少ない一人でもある
無意味に攻撃的なこれぞ世間が抱くHIPHOPイメージど真ん中という物に関心がない事も共通点
次から次へとマイナーな曲を送り付けるから軽く怒られた事もあったが
その内の一つ、私の好きなアーティストが強く影響を受けた
不可思議/wonderboyの「Pellicule」という曲が好感触だったようで送り付けた甲斐があった

大分話が脱線したので言い訳の話に戻すと
どういう話の流れか定かではないが
ミドリさんに問い詰められ身の上話をした

精神病院に入院していた頃の話
病院に入ってすぐ六人部屋に案内された

すぴいぃ…ごろろろぉ んがーっ んがーっ
んん…んんん…んんん… ふがっ ふっ…すぴ(ry

これぞまさしく動物園だと思った
見事と言わざるを得ない多種多様な鳴き声
いびきをかく患者のみなさんが出迎えてくれた
まあ、当然そんな環境では眠りにつく事なんて出来ないので
毎晩部屋から出て朝までずっと明るい廊下で京極夏彦の作品を立ち読みしていた
あそこまで変幻自在ないびきは初めて耳にした物で
流石におかしいだろと思い看護師に話を聞いた
どうやら睡眠薬の副作用らしい
無理矢理眠らせるから病室が南米ジャングル状態になる
それって結構問題なのではないかと思ったが
私は回避する術を身に付けたので口にしなかった
そして当然睡眠薬を渡されても本人が眠っている時に身体から多種多様な鳴き声が発せられているなど御免蒙るので断固拒否した

暫くすると個室が空いたようで私がそこへ移動する事になった
若い事を考慮して気を利かせてくれたのだろうか

真っ白で清潔感のある部屋だった
入口近くのカーテンを開くと洗面台と便器が
硝子が張られている方向には机と椅子があり
六人部屋では眺める事が出来ないような景色が広がっていた
その日は風が強く、雲の流れが速かった
本に飽きてふと外を見ると
様々な形の雲が立て続けに流れてくる
妖怪が登場する京極夏彦の本を読んでいたからか
流れてくる雲に妖怪の姿を与える事が容易かった
これは是非スケッチしようと意気込んだが手元にはシャーペンしかなく断念した
雲に妖怪の姿を与える遊びにも飽きて本を読み進める
この部屋はとても快適だった
一つ問題があるとすれば鍵がかけられない事だ
仕方ない事だとは分かっていたが、予期せぬ来客は訪れる

ある日、私がいる部屋の扉を開けて緩慢な動作で侵入してくる者が現れた
赤いババシャツを着た老婦だった
私に見向きもせず入口近くのカーテンを開き入って行く
トイレの場所でも忘れたのだろうか
不審に思い「どうしたんですか」と声を掛けた
すると、便器の前で直立不動を保っていた老婦がこちらを振り返り
少し恥ずかしそうに
「赤ちゃんをね、産むからね。」と言った
言い終わるとまた便器の前で直立不動
ここで産んでもらっては困るので私は看護師を呼んで連れ去ってもらった
老婦がいなくなり、白い個室に再び平穏が訪れたが
もしあのまま老婦を放置していたらどうなっていたのか
余計な考えを張り巡らせ、少しだけ身震いした


この話をミドリさんにすると
老婦の言葉が大分衝撃的だったようで
何とも言えない笑いが起きた
私としては言い訳のように始めた身の上話
それを笑いに終着させる事が出来た、老婦に感謝
身の上話を聞いた後もミドリさんは変わりなく
彼らしいなと思った
ヒトデさんに話さなかった事を後悔しているかというと
それは余りしていない
話せば彼女は恐らく私を労ってくれるだろう
しかし、距離は変わらず
寧ろ根本的な距離は空いてしまうのではないかとすら思う
私には人を繋ぎ止めて於ける程の力がない
人は離れて行くばかりだ
ここ最近でそれを強く実感した
やはり話さなくて良かったと思う

ミドリさんとヒトデさんは価値観、性格も大分違うが似ている
二人ともアナログ絵が上手い
しっかり論理的に物事を考える事が出来る
滲み出ている「良い子」オーラ
情けないが私が文章にして挙げられる部分といえばこの程度だ
そういえばミドリさんは天寿を全うしたいらしく
ヒトデさんはとっとと夭折してしまいたいらしかった
こういう部分も食い違っているのだが何だか似ていると思ってしまう
価値観や性格とは別に似た雰囲気を持っている
私の中で「あの二人が結ばれて欲しい」という気持ちがある
あの二人が結ばれたのなら結構キツめの喧嘩もするだろうが
しっかり仲直り出来ると思う
二人の子どもはさぞ幸せな事だろう
というか私があの二人を両親として欲しかった
こんな母親、父親が良かったなんて反抗期らしい願い
抱いた事はなかったけれど
この二人を思い浮かべるとどうしてもそう思ってしまう
一つ屋根の下であの人達の子どもとして生活している
とか、そういうイメージは流石に阿呆らしいのでしないが
あの二人が親とまでは行かなくても
近所に、身近にいる人なら良かったのにと強く、そう思う

これ以上書くと虚しくなりそうなのでそろそろ止めにしよう
思いの外、長々と書いてしまった
雨はすっかり止み
何だか窓のおたまじゃくしっぷりに磨きがかかったような気がする
あの人を親に欲しかったと子どもめいた事を書いた幼さ
そんな私の心を反映しているようだった
けど、同じ記事にあの二人の事を纏める事が出来て良かった

そういえばヒトデさんはライダースーツを着た女性が好きで
絵も描いたそうだが恥ずかしいらしく見せてはくれなかった
調べ物をしている時にたまたま見付けたヒトデさんが好みそうなライダースーツ姿の女性の写真があった
彼女に見せてあげたかったが
もうそれは叶わないのでここに置いておく事にする
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今回は少し早めに更新出来た
青臭い願いはここに封をして、寝る支度を始めよう。