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雪だるまを探すのが好きだった。

今年もこの街には降らない。
雪のない、寒いだけの冬は懲り懲りだ。

半袖で寝ると目覚めが良くなる事に気が付いた。
起きると寒さを通り越して何も感じない。
暖かくなるまで続けようと思う。


クリスマスらしく、一応、プレゼントを貰った。

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いらない


今時、中学生でもこのプレゼントは喜べないんじゃないか…。

まだ食べ物の方が嬉しい。
普段からそう、自分が好きな甘いものやお菓子を買ってくるのではなく、血肉になるような、ちゃんとした食べ物を買ってきて欲しい。

指摘すると、少しの間は買ってこなくなったが、最近また買い始めた上に「自分は食べて太ってしまうから」という理由で菓子類を押し付けてくる。
糖分の分解にはカルシウムが必要となるので、本当にいらない。

クリスマスケーキよりカップラーメンの方がおいしく感じた。
菓子類は日頃からちゃんとした食事を取っている人間が食べる物だ。

私が救いようのない程に気が狂い、誰かの親になるような事があったとして、自分の親よりは子を気にかけてやれるという確信がある。


年の瀬には、人と関わっている最中「自分は人として生理的に受け付けない母の息子なんだ」と強く感じる事が多々あり、家族と似た点を見付けると、堪らなく気が滅入った。

そして消極的な屑が揃った家族とできる限りの距離を取りたくなる。
来年は積極的な屑になれるよう少し努力する事をここに決意表明しておこう。

数え切れない程の沢山の人を利用して、迷惑をかけ、私の肉親では決して辿れない結末を迎えてみせる。


他人とのやり取りを書く気分にはなれない。
貰い物は捨てずに飾った。

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想起天井

起きた。もはや虫の声すら聞こえない。

味噌煮込みおでんがあったので食べた。
通常のおでんとは違い、味噌は大根よりコンニャクの方が滲みやすいのか異様にコンニャクが美味しかった。

9番目に話したサクラ(仮名)という人がいる。
おでんを食べ終わり、天井を眺めていると「休日はずっと天井を眺めている」と度々口にしていた彼女を思い出した。

会話の度に、何かしらの料理を作っていたのを覚えている。
料理本は一頁目から順番に作って行くらしい。

基本的にこの活動を始めて繋がった人は、私が質問をして話を広げて行く形になっているのだが、彼女はよく質問をしてきていた。
私が質問した分だけ質問し返していた。

彼女が言うには「世の中は自分の事を話したがる人ばかりだから、質問して話を聞いていれば相手は満足するし、会話は成り立つ。」との事だった。
しかし、私も自分の話をせず、質問をばかりするので苦戦したそうだ。
彼女は私と話をしていると新鮮だと言った。
ここまで人に質問されることはあまりなかったし、されても流していたが、私が一歩も引かないので逃れられず、ちゃんと考えて答える羽目になる。
それを繰り返している内に、今まで気付かなかった事に気付くようになったと言っていた。
それを聞いた私は、そういえば最近似たような話を読んだことを思い出した。

「覘き小平次」という小説。
その中で、語る口を持たない枯れ木のような小平次という男と、様々な人間に成り済まし続けた結果、己を見失ったと語る治平という男の会話がある。

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語る事により己という物は厚みが増す。
しかし、相手の理解を得られないまま、一方的に言葉を連ねるなら、それは電柱でも事足りる。
彼女にこの話をした。感心していた様子だったが、上手く説明できたかは覚えていない。

彼女は「人としての行事は一通り終わった。あとは結婚するだけ。」と言っていた。
婚活パーティーに参加して散々な目に遭ったと私に溢していた。
2分の間隔で人と入れ替わりに話すらしい、とても疲れそうだ。

長年付き合っていた恋人に「教養がなさすぎる、馬鹿すぎるだろ。」と言われてフラれたという話もしていたな。
私も恋人ができたら、似たような台詞を言われてフラれそうだと思った。


家族が使うマウスのクリック音。一定の間隔で狂う時計の音。
書いている途中で聞こえてくるすべての音だ。侘しい気持ちになってくる。

この一週間は誰とも会話しなかった。
靄が晴れない。

蟻目線

変わり者、一線越えた人間について考えていた。

たまに考える事がある。
犬を飼っている。12年以上付き合いのある犬。
彼女を私が殺めて、調理して食べでもすれば一線を越える事が出来るだろうか。一応の結論は出た。
一線を越える事は出来るが、私は少し時が経てばまた線の内側に戻ってしまう、と。
泣いて、後悔して終わる。
たまに犬を母の友人に預ける。いない時は視界の端に幻覚が映ることがある。
その幻覚を見てまた涙ぐむ。
殺しても、勝手に死んでもそうなると思う。
繰り返しの中で気が違って、向こう側へ行けるとも思えなかった。
本当にくだらない事を考えている。


四日前に保護観察者の人が家にきた。
五十代前半の男性だ。
一ヶ月に二度、訪れて少し話をする。
その人が「僕は変わってるでしょ」と言った。
携帯の話になり、携帯を持っていると束縛されているようで気分が悪いと、持たない自分は変わっていると、得意気にそう言っていた。
私はその人を見下した。結構早い段階で無意識に見下していたかも知れないが、自覚的に。

確かにこの便利な世の中、十代の若者が携帯を持っていないという話なら少しは変わり者だと感心もするが、それが五十代の人間なら話は別だ。

普段、私はその人に対して無言を決め込んでいる。
そうすると早く帰ってくれるからだ。
しかし、その日は少し噛みついてやろうという気持ちになった。
変わり者について考えていた、悩まされていた私には必要以上にその言葉が癪に障った。

結果は逆効果だった。
以前まで終始無言だった私が話しに乗ってくるので気を良くしたのか、とんだ長話になってしまった。
聞きたくもないアマチュア無線の話を聞いた。
アマチュア無線は赤の他人と話ができる物らしく、資格も必要と言っていた。
似たような物で「斉藤さん」というアプリがあるのだが、相手が嬉々として話している手前、気を遣い話さなかった。
いつもは三十分程度で終わるのだが、その日は一時間以上付き合う羽目になった。
話さなかった事は後悔している。

そのアマチュア無線で仲良くなった友人と林檎狩りへ行ってきたようで、林檎を二つ貰った。
林檎はヘタがないと商品としての価値が下がる。
その林檎二つはしっかりヘタがついており、付くように収穫するのは難しかったと、得意気に話していた。
林檎は甘くて美味しかったのでまあ良い。


どうして「変わり者とは何か」などと考え事をしていたのかというと、昔から特別視していた人がいて、その人から魅力、特別性を見失ってしまったからだ。
今回は彼について書こう。
分かってる。前置きが長いなんてこと。

呼び名は佐藤(仮名)とする。活動を始めて3人目に話した。
個人的な話になると質問をしても素直に答えず、なかなか手強かった記憶がある。

何に起因するのかは聞けていないが、佐藤は俗に言う処女厨だ。
結婚の話になった時に白状していた。
聞くと、仲の良い相手がおり、互いに将来を誓い合っているようだった。
佐藤と私は同年代で、既にそんな未来の事まで考えているのかと、少し懐疑的な気持ちを抱きながらも感心した事を覚えている。

そこまで相手を大事に思っているのかと尋ねると、「俺っちは一途だからよ」と言った。
たまに照れ隠しで一人称を変える。

以前の彼は時折不安定になることがあった。
一度だけその不安定な時に話をしたことがある。
その時はペンを机に叩き付けながら奇声を発したり、芸人の一発ギャグを脈絡なく会話に放り込んできた。
私が「うるさい」というと、少し笑った。

次話す時にはもう大学へ入っており、生徒の8割が女子で毎日退屈だと嘆いていた。
佐藤が退屈な人間になったのは、個人的にこの環境が原因だと考えている。

三年来の友人で、今では見る影もないが、一年近くは羨望していた。
私が彼以上の人、数人と繋がりを持ったということもある。
佐藤は中身がある風の言葉をその場その場で恥ずかしげもなく吐くことができる。
その言葉には、彼の内側から絞り出された思いが乗っているのだろうと幻想を抱いていた。それも違っていたようだ。
ホストをやりたがっていたから、自覚はしているのかもしれない。
佐藤について他の人に話すとその人は「大人になったんだろう」と言っていた。
考えないでいられるようになる。脳死
そうかもしれない。

私が小学校に入ったばかりの頃、祖母が他界した。
葬式は人が沢山来ていたのと、隣で泣く姉と母しか覚えていない。私は泣かなかった。
それからすぐお花見することになり、私は他の子と一緒に桜の木に登って遊んでいた。
母はヤケ酒をし、親族もいる場であられもない姿を晒していた。
その姿を見た幼い頃の私は、何故だかとても母に対して怒りを覚え、落ちていた桜の木の枝を持ち、酔っ払った母の後頭部目掛けて降り下ろした。

強めに降り下ろしたはずなのだが、当時の私はとても非力だったようで、私に気付かず、母は談笑しながら酒を飲んでいた。

佐藤について書いていたら思い出した。
気持ちとしては、少し似通ったところがあるのかもしれない。

酷くぼんやりしている。
とても文章を書けるような心情ではなかったが、書いておかなければいけない気がした。
私の嫌な部分が沢山でてしまった。
心が荒みきっている。

近頃犬の手術がある。
死なれても、しっかり向き合って悲しめる気がしない。
今の私から流れる涙は恐らく潔白ではないから、もう少しだけ生き存えて欲しい。

生存報告

長らく更新していなかったから、無事に東京から帰還できなかった人みたいになってしまった。

他に書きたい事が山積みになってしまっているので、とりあえず東京の話を書いておく。
といっても、初めて東京に行ってから大分時間も経ち、殆ど覚えていないので印象に残った事だけざっくり書く。
それと、改行が多くて見づらいという意見を貰ったので、今回はなるべく改行せず、句読点を使って書いてみる。
余計読みにくくなっていたら始末に負えない。

初めての東京に募る不安。過保護な母親の如くLINEを送ってくる知人、そのお陰で気が楽になる私。

夜行バスでラジオをずっと聴いてしまい、切れる携帯の充電。

ネカフェのショーペンハウアーのような髪型をした店員。
ずっと目を見続けてきたのでソシオパスかもしれない。

スクランブル交差点を平然と歩く、翡翠の眼をしたハリウッド俳優のような外国人。

新宿2丁目、驚異の坊主頭、短パン率。

印象に残っている事はこれくらいだろうか。あとは一緒に遊んだ二人について書こう。

一人は過去の記事で書いたオンナさん、もう一人は「オカマ(仮名)」さんと呼ぶ事にする。
過去の記事に美容に詳しいと書いてある。そういえば、綺麗な肌を維持する秘訣を教えてもらっていた。

ビタミンと野菜は欠かせない。人並みに肉は食べるがそれ以上に野菜を食べる。ご飯を食べるときは最初に野菜を食べる。その方が肉を食べた時に血圧が上がらず、なだらかになり、野菜でお腹が膨れ一石二鳥。
油で出来るものとは違い、大人になってからできるのは老廃物が原因のにきび。お菓子を食べる習慣がない。
皮脂がでやすいので朝、夜と洗顔料を使っている。
洗顔料のあとに化粧水。使っている洗顔料はエテュセの「ジェルムース洗顔
乳液は男だと逆に皮脂になる可能性がある。化粧水は西友に売っている「化粧水と乳液これ一本」
肌に関しては1に食生活、2に運動と生活リズム、3に化粧水、洗顔
毎朝「ブルガリアヨーグルト」を半分食べる。
これを続けることにより、摂るおにぎりやインスタントの量も減る。
一週間の内、合計して出てくる野菜の種類は6種類程度。
キャベツ、トマト、玉ねぎ、ブロッコリーコマツナ、ひじき、にんじん。
一家で野菜を沢山摂る。野菜の皿が大きいので家族全員でバクバク食べてる。
献立を決めてるのはお母さん。オンナ家は食材にお金をかける。家具は必要最低限。朝起きたらスコーンを作り名前を付ける。

彼と話した時の記録から抜き出してきた。肌荒れで悩んでいる人の参考になるといい。

オンナさんは小さい頃に、父親の仕事の関係で知らない人と話す機会が多かったからか、人付き合いが上手いのだが、問題は相方のオカマさんだ。
オカマさんは活動を始めて2番目に話した人だ。この人に関しては言いたい事が沢山あるが、今回はグッと堪える。

オカマさんは簡単に言うと危険人物で、のろのろ歩く鳩相手にキレる。アイドルの話を大声でする。
周りに人がいようがお構い無しだ。並んで歩きたくないので、私は常に二歩下がってオカマさんと歩いていた。

合流して休める場所を探していると、何か閃いた様子で「そうだ」と言いながら手を合わせた。
魅力的な女性と、顎髭が目立つ成人男性がやるのとではここまで差が出るのかと感嘆した。
一挙一動がとても奇っ怪で、注意深く見てしまった事を反省している。

ネットでしか繋がりのない人と実際に会うとどうなるのか不安だったが、通話と何ら変わりなく、自然に話せた。
初めて一人で遠出して、少しだけ成長した気分にもなっていた。

あの日は思っていたより悪くなかった事を、ここに記録しておく。

まだ見ぬ東京への情景

窓を開けると部屋に冷気が流れ込む
そろそろ肌寒くなってきた
もうクリスマスツリーを出している家を見掛けた
そろそろ霜月の季節だろうか


明日、東京へ行く
今日の23時出発の夜行バスに乗り22日の朝6時に到着する
昨日、東京で会う大学生男性と社会人男性の二人と計画し
行き方も教えてもらい不安は取り除かれた
しかし、二人と話を終えたあと
また不安が芽生え、遠足が楽しみで仕方ない子どものように落ち着かず4時頃まで眠れなかった
それから9時に起きたが、三度寝くらいしてしまい14時に起きた
三度寝の間に見た夢はそれぞれ東京に関する私の心情を表していた

東京に行く事が決まり、話したい人に連絡を取ろうと考えていた
しかし、先に夢の方で話す結果となった
「「寝た?」とか聞かないで、こういう面倒な事聞く人は嫌い」
と夢の中の私は忠告されていた
そんな事聞いたこともない
電波が悪くなり途中で切れ
そのまま東京に向かった
無事に着き携帯を見ると話していた人からチャットがきていた
私は気付かずさらに「中卒の癖に寝てるのかよ」と送られてきていた
とんでもなく理不尽だ
しかし、それを見た夢の中の私はまったく傷付かなかったどころか
現実にはお互い敬語で話す関係だったので
罵倒し会える仲にまで距離が縮まったのかと喜びすら感じていた
起きてからその事を思い出し
大分精神にガタがきているなと思った

そして肝心の東京
そこは私が想像していた東京の街並みとは駆け離れた姿をしていた
見渡す限りの海賊映画に出てきそうな大量の酒が乗った丸テーブル
そこに座って談笑する黒スーツ達
全員サングラスをかけ中には銃をテーブルの上に置いている者までいる
いかにも私達はマフィアの人間ですという身なりをした集団の溜まり場だった
止まない銃声と怒声
完全に寝る前観た
マトリックスのパクりかと思ったら映画史上に残るアクション映画だった」といった題名の短い動画を観て
マトリックスに登場する黒スーツを思い出したのが原因だ
私がマフィアを避けて通りを歩いていると
したり顔で「あいつは銃を持ってるぜ」と自身の洞察力を自慢するように黒スーツがひそひそと話していた
いや、銃なんて持っていない
濡れ衣で変な絡まれ方はしたくない勘弁して欲しい

そのまま通りを歩いていると殺人現場に遭遇した
ちょうど私の目の前で人が殺された
私は第一発見者として証言を求められたが
マフィアに上手く伝わらずアスペルガー症候群扱い
そのまま病棟に隔離された、マフィアふざけんな
脱出して今度こそ本当の東京へ向かおうとすると
怪物が現れ、行く手を阻んだ
手が沢山生えていて見るからに化け物といった風貌をしているが
顔はマフィアだった
これは昨夜HUNTER×HUNTERのキメラアント編が観たくなり
20分くらい観たのが原因で間違いないと思った

怪物に「弱いから消えろ」みたいな事を言われて東京へ向かおうとすると
必需品のおむつを忘れていたことに気付き(何故おむつが必需品なのか)
一度家へ帰宅した
いつの間にか鞄に入っていたサングラスを見付けた母に
「あんたサングラスなんか買って」と怒られ夢から覚めた
私の不安が顕著に表れた夢の連続だった


寝てしまった一因としては餅米を少し食べてしまったせいだ
今日に限って何故か餅米だった
食べない訳にはいかなかった

起きてからは急いで支度をして床屋へ行く
今までずっと美容院だったがあそこは洒落た音楽に良い香りが眠気を誘い首ががくんと落ちる
あれは恥ずかしい出来事にランクを付けるならかなり上位に喰い込む出来事だ
出来れば行きたくない

美容院のようにピンクとオレンジのオーラが漂っていない
見るからに床屋という建物に入った
今年は自分で髪を切り
ちゃんとした場所で切ってもらうのは久々だ
内観は意外と小洒落ている
いかにも床屋の親父といった人はいなかったが
若い理容師もいないようだったので安心した

毛先を遊ばせている二十代後半らしき人が担当してくれた
髪について聞かれたので自分で切ったというと器用だねと言っていた
まあ、オールバックは髪を梳き掻き上げるだけなので私でも簡単に出来る
シャンプーが終わり、髪を切り始めた
がっがっと頭皮が傷付くんじゃないかという程に強く櫛で髪を掻き上げ
その直後に優しく髪を撫で下ろす
この男、間違いなくDV男の素質がある

一通り私が考えていた理容師のしそうな事が終わると
急に理容師がポンポンと肩を叩き出した
リズミカルにずっとポンポンしている
頭、首、両肩を順にポンポンし出した
私の身体で音ゲーを始めたのか
何が起きているのか分からなかった
マッサージにしては軽過ぎる
想定外の未知な出来事に笑いそうになったが
歯を喰い縛り口角を押さえ付けた
結局何も知らされずリズミカルポンポンが終わった
私の中に違和感が残ったまま女性の理容師に交替した

女性の理容師は顔の無駄毛を剃るのが役目らしく
剃りやすいよう顔にジェルを塗り始めた
塗り終わり、顎に差し掛かる
すると女性理容師の指が私の唇を這った
一度ならず何度も唇の上を這い進んだ
何だかその指の動きがとても艶かしく
気圧されそうになった
しかし、逆の立場なら私にだってそれくらいの事は出来ると自分に言い聞かせ、堪えた

剃っている間に毛先遊ばせ理容師と坊主理容師が談笑し始めた
地震の話と、辞めた理容師の話
辞めた理容師は大学生が苦手らしく
坊主理容師に「大学生めんどくせえ」と言い辞めたそうだった
坊主理容師は若干韻を踏んでいるこの台詞を言っている内に気に入ったのか
「大学生めんどくせえってさ」「そうそう大学生めんどくせえ」
「大学生めんどくせえだよ」と毛先遊ばせに連呼していた
ラッパー志望か

理容師の会話に耳を傾けている内に剃り終わったらしく
顔全体をほぐす目的のマッサージが始まった
またとんでもなく艶かしい指の動きが始まったが
私でも出来ると強く念じ堪えた
マッサージが終わると唐突に鼻から下を覆うように熱いタオルをかけられた
熱すぎて肌が焼けそうだ
日焼けサロンの中もこれくらい暑いのだろうか
このまま日焼けしたら鼻から下だけ露出した鎧を頻繁に着用している人みたいになる
幾ら何でもそれは不名誉にも程がある

そんな事を考えているとタオルを外された
安心し、一呼吸ついた
すると今度は顔全体を大きな灼熱タオルに覆われた
完全に不意を突かれ、殺されるかと思った
何とか息を止め難を逃れる
ようやく女性理容師の役目が終わり毛先遊ばせ理容師に交替した

今度は機械を使った電動マッサージが始まった
どうやら先程のリズミカルポンポンはどの辺りが凝っているのか確かめているらしかった
ようやく謎が解けた
マッサージで血行が良くなった部分は痒くなるらしい
唾液が原因で痒くなる蚊とは随分違う
血行が良くなり痒くなるのは何故だ
良くなった部分は元気になり良くない部分と比べ盛り上がったりするのか
その違和を感知した身体が「奴らを抑えろ」
と命令を出し痒くなるのだろうか
世知辛い

最後に毛先遊ばせ理容師に「油付ける?」と訊かれた
油、恐らくワックスの事なのだろうが
美容師ならしないであろうその呼び方がとても床屋らしく好印象だった
油は少しだけ付けてもらった
お会計4000円を出し
300円引きのチケットを手に入れる
オールバックではないが
名前が分からない良い感じの髪型にしてもらった

店から出るとにこやかな老人が立っており
「ありがとう、またきてね。」と言われた
外にも刺客を用意している、なかなか油断ならない良い床屋だった

髪を切り、あとはコンビニ決済を終えるだけだ
近くのサークルKを探すと10分歩いた先にあるようだった
スマホ片手にGoogleマップを見ながら歩く
そんな自分の姿を客観視すると
未だにポケモンGOをやっている化石人間みたいだ
前方からシーラカンスが泳いでくる
なんて思われたら堪らないと思いスマホをしまった

サークルKを見付け、コンビニ決済を済ませる
レジで領収書を受け取り出ようとすると
缶コーヒーを片手に並んでいたおじさんが店員に向かって
「なんやあれ、学歴か?」と言うのを耳にした
どうやら5500円で私が学歴を買ったと勘違いしたらしかった
あのおじさんは私が中卒だと看破したという事か
だとするとただ者ではない
それとも私から中卒オーラがでているのか
いや、あのおじさんが物事の本質を見抜く慧眼の持ち主なんだろう
そういう事にして気を沈める
不安になるからやめて欲しい

帰り道少女の群れが前方から迫ってきていたので
迂回して回避した
幼い少女程何を口にするか分からない脅威だ

帰宅すると、犬が寄ってきた
珍しい匂いを持ち帰ったからか
10分間程フンフンフンフンと上半身を嗅いでいた
身体検査か何かか


帰宅しブログを書いていると、もう21時だ
そろそろバス停へ向かおう、必ず生きて帰る。

似ている二人

風邪もすっかり完治し、平日がやってきた
外から心地好い雨の音がする

工事の影響か、ベランダへ通じている窓が今までにない程汚れている
何だか、おたまじゃくしの皮膚の表面みたいだ
まだ工事期間なのですぐにまた汚れるだろうと思い洗わずカーテンを閉めた

暗くなった部屋
このまま映画を観ようと思った
観る作品は京極夏彦の「姑獲鳥の夏
原作は読了済みだ
ベッドの上でうつ伏せになって観始めた

白黒の風景写真が続々と表示され始まる
登場人物が一通り出揃った
探偵 榎木津礼二郎役が阿部寛
木場修太郎役は宮迫博之だったが、阿部寛は余りにも落ち着き払っており、破天荒なあの探偵像とは程遠く
宮迫博之は映る度に例の顔と手の動きを駆使したあの奇怪な動きが脳裏を掠めた
京極夏彦の作品が醸し出す妖気めいた雰囲気をあの手の動きで左右に掻き乱されている気分だった
妖気はすっかり雲散霧消した
真四角の顔をした刑事は遠藤憲一が嵌まり役だろうと
小さな不満を抱きながらも観続けた

固定カメラを使ったシーンが多く、効果音は時代を感じさせる
後半では、久遠寺涼子の母 久遠寺菊乃が原作とは違った結末を辿り
涼子に蹴られ、ぴぎぃと潰された蛙のような声を出しながら背中から地に倒れる菊乃は
久遠寺家にかけられた呪い「蛙の赤子」を彷彿とさせる

醜く、恐ろしい物だと畏怖の念を抱き
赤子に非人道的な行いをしていた久遠寺菊乃
その彼女自身が不細工な鳴き声を発しながら転倒する様は見事なカタルシスであり
これは原作にない良い点だ

観終えた感想としては
スタッフ側が用意した映画でこそ映える演出
遊び心に気付けた事に少し得意気になれたので
映画「姑獲鳥の夏」の最終的な印象はそこまで悪くならず
近々「魍魎の匣」の方も観てみる事にした


そういえば、インタビュー活動で知り合った人と少しだけ京極夏彦の作品について話した事がある
どれくらい前に話した人なのか調べた
私は人と話す際には記録としてボイスレコーダーを使い
「あめんぼあかいなあいうえお」と発声練習をする
会話を終えた後にその記録に話した人物の名前を入れるようにしているのでこういう時に便利だ
どうやら去年の九月頃に話した人らしい
思ったよりも昔で、活動を始めて15人目に話した人だ

名前をヒトデ(仮名)としよう
ヒトデさんは三十路の女性なのだが、三十路とは思えない程
良い意味で少女らしさが残っている人だ
ヒトデさんも前の記事で書いたオンナさんと同様
過疎な配信サイトで時折配信をしていた人だ
去年、私が初めて彼女と話した時はまだ三十路ではなく
三十路になったらちゃんとした大人としてネットから離れ
配信も辞める心積もりだったようで
宣言通りいなくなり連絡も取れなくなった

彼女は接しやすく、立派な考えを持っているが少々抜けたところがあった
私が返答に窮していると
「困ってる」「考えてる」と少しだけ楽しそうにしながら口にした
そして彼女が悩んでいる時は決まって「うーん」という
ただの「うーん」ではなく、とても可愛らしい「うーん」が出る
普段は落ち着いた大人びた声なのだが、くしゃみをする時は何故か声が高くなり
普段よりも聴き心地が好い声が出る
基本しっかりしている人なのだが、そうした抜けた部分がある
隙というのだろうか
隙がある人は魅力的というが彼女にはその言葉がよく当てはまっているように思える

私が初めて話した時はアイスランドから帰ったばかりのようで
アイスランド土産の琥珀の話をしてくれた
琥珀が樹液から出来ている事を知って驚いた
私も負けじと琥珀に似ている昆虫を教える
マダラカマドウマという虫を教えたら画像検索したらしく
「気持ち悪ーい!」ととても良いリアクションをしてくれた

ヒトデさんは綺麗なボブカットをしており
森見登美彦 著書「四畳半神話大系」の登場人物
「明石さん」に雰囲気がとても良く似ていた
ヒトデさんからは上流階級の匂いがし
尋ねてみると「私は違いますけど友達はそうです」との事だった
どちらにせよ育ちが良い人という認識は変わらなかった
私が彼女は育ちが良い人と確信した出来事がある
京極夏彦の作品に登場する榎木津礼二郎という破天荒な探偵の話になった際に
榎木津礼二郎さんは~」と小説上の架空の人間に対して「さん付け」をしたのだ
これには驚き、やはりこの人はただ者ではないと確信した
もしかしたら榎木津礼二郎という人間が眉目秀麗の美男子という設定で
好きな人物だから「さん付け」なのではないかと考えもしたが
榎木津礼二郎以外にも癖の強い登場人物は多く
その全員に分け隔てなく「さん付け」をしているヒトデさんがいとも容易く思い浮かんでしまうのでその可能性は捨てた
まあ、もしそうだとしてもだから何なのだという話なのだが…

本の話もした
ヒトデさんが好きなムーミンの本や
面白そうな本を幾つか教えてもらった
その一つに坂田靖子 著書「時間を我等に」という物があった
作品集のような物で、不思議で難解な本だった
読み終えた後に調べてみると
マルセル・デュシャンサルバドール・ダリ等の作品が上手く組み込まれている
美術的教養があるとより楽しめる本のようだった

ヒトデさんは学生時代
授業を受けず保健室で本ばかり読んでいたと私に話してくれた
同学年の女子生徒数人と何かあったようで
もっと勉強しておけば良かったと溢していた
続けて「大人はみんなこの台詞を言うよね」と言っていた
私も教養のなさを気にしているので
「子どもだって言いますよ」と返したら笑ってくれた
何だか悪い気がして
学生時代の話を余り掘り下げられなかった事を少し後悔している

どうしてヒトデさんは学生時代の事を話してくれたのかと考えると
そういえば私が年齢を教えたからだった
17才と明かした時は大変驚いた様子で
それからしばらくの間は数分に一度
「偉い」「すごい」と頻繁に口にしていた
確か、その前に頻繁に口にしていた言葉は
「どこがコミュ障なんですか」だった
年齢を明かす前、話し始めて数十分に一度は言われていた
話した人が20人にも満たない頃
まだ「コミュ障」を盾にしていた頃だ
ヒトデさんにコミュ障を治す為にという理由でかけたからそんな事を言われたのだ
そして、その日を境にコミュ障という言葉に頼らなくなった
未だに敬語には頼りっぱなしだが
一つ、問題が減ったのはヒトデさんのお陰だ

ヒトデさんは清廉潔白に生きているようで
純粋さを感じる事が多い

祭りの話になった時、私が祭りに行く約束をして結局行かなかった話をした
何人か来るからおいで、くらいの軽い話だった
ヒトデさんは少し笑いながら「クズですね」と言った
その通りだと思ったし、ヒトデさんも笑っていたのでまったく気にしていなかった
九月から十月に変わった次の日の朝
ヒトデさんから連絡が来ていた
クズと言った事をすごく気にしていたようで内容は謝罪文だった
その文から誠実さという物を強く感じた

夜更け、ヒトデさんと話している時に空で月を囲むようにして虹が掛かっていた
そんな虹見た事ないと言うので写真を撮ったが上手く映らなかった
数日経った次に話した時、あの時見た虹は暈という物らしく
虹は空気中の水分が反射して出来る物
暈は氷が反射して出来る物でと話しているとパシャリという音を耳にした
どうやら調べてそのページを撮ったようだった
「初めて知った、わざわざ教えてもらったから」と言っていた

自分がした失言、してもらった事に対して大袈裟というか
本当に誠実で魅力的な人だと思うばかりだった

年齢を明かしただけで、ヒトデさんは私の事を学生だと思っている
こういう、話せば私の理解者になってくれるだろうなという人に程
身の上話をする事が卑怯な事に思えて仕方なく、する事が出来ない
私が身の上話をする時と言えば
問い詰められて誤魔化せず、言い訳をするかのように話し出す時だけだ

そういえばヒトデさんと似た
私が直接言葉で身の上話をした数少ない人がいた
その人の事も書いておこう
ヒトデさんとあの人は同じ記事で纏めておきたい


名前はミドリ(仮名)とする
二十代後半か三十代前半の男性で
私がインタビュー活動を始めようと思い一番初めに話した人物だ
ミドリさんも時折過疎サイトで配信をしている人で
もう度肝を抜かれる程に饒舌な人だ
何度か話した内、夕方から話し始めて夜まで10時間続けて話した事が一度だけある
私はあの時の記憶が殆どないが恐らく相槌をする機械と化していた事だと思う
私が音楽の元ネタを知っている事にテンションが上がる彼
漫画の話、後半はもう布団を被りながら話していた事
会話を終えた後はまるで電池が切れてしまったように眠りこけた事はしっかり覚えている

何故そこまでの長時間話し続けられるのかというと
彼が情熱的な人間だという事に他ならない
情熱的と言っても「熱くなれよ」が口癖の元プロテニスプレイヤーや
口許に薔薇を加えて耳許で愛を囁くといった情熱の在り方ではない
もっとこう、身体の芯の底で煮え滾るマグマのよう
肯定の言葉を簡単には信用しないで飲み込む事をせず
表現という物を工夫するよう意識を働かせ
マグマが大分高い頻度で上昇し
口から出る言葉にはその熱がこもり
中々対等に渡り合える熱量を持った活火山が現れず
最早期待は捨て存分に登山者へと容赦ない量の火の粉を振り撒き浴びせる

僻地に鎮座する活火山
そんな男だ
かなり好き勝手に書いたが私はそういう男だと思っている

ミドリさんは学生時代放送研究部だったようで
そのお陰か少しの水分だけで何時間も保ち
喋り続けていられる常人離れした体力を持っている
ミドリさんと初めて話した時は屋上から掛け
屋上にいる事を何故か酷く驚いていた、それだけの記憶しかない
初めてSkypeを使って人と話したから終始緊張していた気がする
私が好きなアーティストの歌詞が抽象的なので
知識人に見せたらどんな解釈をするのか楽しみにしていた事を思い出し
ミドリさんに見せると私が考えもしなかった事を次々口にするので
とても新鮮でもっと色々聴いて貰いたいと思った記憶が強く残っている
ラップミュージックについて話せる数少ない一人でもある
無意味に攻撃的なこれぞ世間が抱くHIPHOPイメージど真ん中という物に関心がない事も共通点
次から次へとマイナーな曲を送り付けるから軽く怒られた事もあったが
その内の一つ、私の好きなアーティストが強く影響を受けた
不可思議/wonderboyの「Pellicule」という曲が好感触だったようで送り付けた甲斐があった

大分話が脱線したので言い訳の話に戻すと
どういう話の流れか定かではないが
ミドリさんに問い詰められ身の上話をした

精神病院に入院していた頃の話
病院に入ってすぐ六人部屋に案内された

すぴいぃ…ごろろろぉ んがーっ んがーっ
んん…んんん…んんん… ふがっ ふっ…すぴ(ry

これぞまさしく動物園だと思った
見事と言わざるを得ない多種多様な鳴き声
いびきをかく患者のみなさんが出迎えてくれた
まあ、当然そんな環境では眠りにつく事なんて出来ないので
毎晩部屋から出て朝までずっと明るい廊下で京極夏彦の作品を立ち読みしていた
あそこまで変幻自在ないびきは初めて耳にした物で
流石におかしいだろと思い看護師に話を聞いた
どうやら睡眠薬の副作用らしい
無理矢理眠らせるから病室が南米ジャングル状態になる
それって結構問題なのではないかと思ったが
私は回避する術を身に付けたので口にしなかった
そして当然睡眠薬を渡されても本人が眠っている時に身体から多種多様な鳴き声が発せられているなど御免蒙るので断固拒否した

暫くすると個室が空いたようで私がそこへ移動する事になった
若い事を考慮して気を利かせてくれたのだろうか

真っ白で清潔感のある部屋だった
入口近くのカーテンを開くと洗面台と便器が
硝子が張られている方向には机と椅子があり
六人部屋では眺める事が出来ないような景色が広がっていた
その日は風が強く、雲の流れが速かった
本に飽きてふと外を見ると
様々な形の雲が立て続けに流れてくる
妖怪が登場する京極夏彦の本を読んでいたからか
流れてくる雲に妖怪の姿を与える事が容易かった
これは是非スケッチしようと意気込んだが手元にはシャーペンしかなく断念した
雲に妖怪の姿を与える遊びにも飽きて本を読み進める
この部屋はとても快適だった
一つ問題があるとすれば鍵がかけられない事だ
仕方ない事だとは分かっていたが、予期せぬ来客は訪れる

ある日、私がいる部屋の扉を開けて緩慢な動作で侵入してくる者が現れた
赤いババシャツを着た老婦だった
私に見向きもせず入口近くのカーテンを開き入って行く
トイレの場所でも忘れたのだろうか
不審に思い「どうしたんですか」と声を掛けた
すると、便器の前で直立不動を保っていた老婦がこちらを振り返り
少し恥ずかしそうに
「赤ちゃんをね、産むからね。」と言った
言い終わるとまた便器の前で直立不動
ここで産んでもらっては困るので私は看護師を呼んで連れ去ってもらった
老婦がいなくなり、白い個室に再び平穏が訪れたが
もしあのまま老婦を放置していたらどうなっていたのか
余計な考えを張り巡らせ、少しだけ身震いした


この話をミドリさんにすると
老婦の言葉が大分衝撃的だったようで
何とも言えない笑いが起きた
私としては言い訳のように始めた身の上話
それを笑いに終着させる事が出来た、老婦に感謝
身の上話を聞いた後もミドリさんは変わりなく
彼らしいなと思った
ヒトデさんに話さなかった事を後悔しているかというと
それは余りしていない
話せば彼女は恐らく私を労ってくれるだろう
しかし、距離は変わらず
寧ろ根本的な距離は空いてしまうのではないかとすら思う
私には人を繋ぎ止めて於ける程の力がない
人は離れて行くばかりだ
ここ最近でそれを強く実感した
やはり話さなくて良かったと思う

ミドリさんとヒトデさんは価値観、性格も大分違うが似ている
二人ともアナログ絵が上手い
しっかり論理的に物事を考える事が出来る
滲み出ている「良い子」オーラ
情けないが私が文章にして挙げられる部分といえばこの程度だ
そういえばミドリさんは天寿を全うしたいらしく
ヒトデさんはとっとと夭折してしまいたいらしかった
こういう部分も食い違っているのだが何だか似ていると思ってしまう
価値観や性格とは別に似た雰囲気を持っている
私の中で「あの二人が結ばれて欲しい」という気持ちがある
あの二人が結ばれたのなら結構キツめの喧嘩もするだろうが
しっかり仲直り出来ると思う
二人の子どもはさぞ幸せな事だろう
というか私があの二人を両親として欲しかった
こんな母親、父親が良かったなんて反抗期らしい願い
抱いた事はなかったけれど
この二人を思い浮かべるとどうしてもそう思ってしまう
一つ屋根の下であの人達の子どもとして生活している
とか、そういうイメージは流石に阿呆らしいのでしないが
あの二人が親とまでは行かなくても
近所に、身近にいる人なら良かったのにと強く、そう思う

これ以上書くと虚しくなりそうなのでそろそろ止めにしよう
思いの外、長々と書いてしまった
雨はすっかり止み
何だか窓のおたまじゃくしっぷりに磨きがかかったような気がする
あの人を親に欲しかったと子どもめいた事を書いた幼さ
そんな私の心を反映しているようだった
けど、同じ記事にあの二人の事を纏める事が出来て良かった

そういえばヒトデさんはライダースーツを着た女性が好きで
絵も描いたそうだが恥ずかしいらしく見せてはくれなかった
調べ物をしている時にたまたま見付けたヒトデさんが好みそうなライダースーツ姿の女性の写真があった
彼女に見せてあげたかったが
もうそれは叶わないのでここに置いておく事にする
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今回は少し早めに更新出来た
青臭い願いはここに封をして、寝る支度を始めよう。

屋上にて

冬が近付き、見事に風邪を引いた。

十月に連絡が取れなくなると書いた人は
一足遅かったようで音沙汰がなくなってしまった
気分を変える為屋上に出た、体育館並みの広さだ
屋上をぼけぇと歩いていると避雷針に結び付けられた丈夫で黒いロープに頭を、地面から突き出ている目立たない鼠色の突起物に片足をぶつけたりした
暗くてどこに何があるのかわかりづらい

せっかくこんな開放的な空間にいるのだから誰かと会話しようと思い
前から気になっていた人に声を掛けた
しかし、声でのやり取りは社交的な人間という訳ではないから難しいと断られてしまった
谷崎潤一郎 著書「春琴抄」について語る様は私の求めている見識のある人間そのものだ
その人はホームレス生活をしていたらしく
ホームレス生活をする計画を立てている私としては是非とも話してみたかった

新しい人とは話せなかったがオンナ(仮名)さんと話をした
オンナさんは時折過疎な配信サイトで配信を行っている人で、私が屋上にいる間に始めたようだった
身内に不幸があったらしい
身近な人にはまだ言い難く、顔も知らないくらい縁の薄い人と話したいとの事だった
その配信はすぐに終わったので私は早速かけてみた
オンナさんは女性性を持った男性で美容に詳しかったりする

過去に何度か話したことがある
メモを見るに27人目に話した人だ
会話の内容と言えば、その不幸にはお互い触れず世間話や私の悩みを相談した
オンナさんには相方のような人がいる
時折二人で配信しており
基本的にオンナさんが相方をいじり笑いが生まれる構図だ
そのお互い気軽に小突き合える関係が羨ましいと思っていた
私は嫌われるのが怖い訳ではないが、敬語を使い冗談も言わないので心地好い軽妙な会話という物が出来ない
そしてオンナさんに「僕のような人間が面白くなるにはどうすれば良いのか」と半ば投げ遣りな質問をした
答えとしては「場数を踏むこと」だった
オンナさん曰く、私は考えてから言葉を口にする事が多いので
もっと何も考えず思い付いた冗談を口にしてみたら良いのではないか
思った事をそのまま口にして怒る人は意外と少ないとの事

確かに常に考えてから言葉を口にするのは身構えているという事で
軽妙な会話には繋がらない
お互い小突き合える人間関係の貴重さについては「真剣な話なら誰とでも出来る」と目から鱗な言葉を言っていた
たまに会話が苦手という人がいる
ああいう人はもしや会話は面白くなければいけない物と考えているから苦手意識があるのではないか
私は会話なら普通に出来ると考えていたが普通の会話しか出来ない事に気が付いた
この活動自体、利己的な信念を基に始めた事で
会話に苦手意識を持つ人よりも会話を盛り上げようという意識が低いかもしれない


オカマキャラが生まれた理由は小学生の頃、会話の際に身ぶり手振りを交えて話してるのを見た友人から「おばちゃんみたい」と言われた事がキッカケらしい


問題を再認識して少し情けない気持ちになり
オンナさんの言葉を頭の片隅に置き
この活動を早く完遂しようと誓った
何度か話した事がある人という事もあり、いつも使う質問一覧は使わなかった
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相当寛大な人でなければ殆どが「どうしてこんな事を初対面の人に言わなければいけないのか」というような物が多い
まだ誰にもしていない質問、個人的に気になっているくだらない質問も幾つかある
下のは戒めだ
20人に届かない辺りでは結構頼っていた気がする
最近はあまり頼らなくなってきた
初対面なのだからここから質問を選ばなくても会話は広げられるが
やはり聞いてみたい事なので機を逸したならまた今度、話す切欠になるだろうと考えた

オンナさんとの会話を終え
好きな人に電話をかけて風邪を心配されたくなったが、咳が酷くなり
これは耳障りだなと思い断念

ふと通知を見ると、連絡が取れなくなっていた人から女性がランニングしているスタンプが送られてきていた
またいなくなる前に連絡しようと思い
屋上から出ようとしたとき、夜の帳に紛れた真っ黒いぴんと張ったロープに足を取られ盛大に転びかけた
次来るときは用心しよう。