まだ見ぬ東京への情景

窓を開けると部屋に冷気が流れ込む
そろそろ肌寒くなってきた
もうクリスマスツリーを出している家を見掛けた
そろそろ霜月の季節だろうか


明日、東京へ行く
今日の23時出発の夜行バスに乗り22日の朝6時に到着する
昨日、東京で会う大学生男性と社会人男性の二人と計画し
行き方も教えてもらい不安は取り除かれた
しかし、二人と話を終えたあと
また不安が芽生え、遠足が楽しみで仕方ない子どものように落ち着かず4時頃まで眠れなかった
それから9時に起きたが、三度寝くらいしてしまい14時に起きた
三度寝の間に見た夢はそれぞれ東京に関する私の心情を表していた

東京に行く事が決まり、話したい人に連絡を取ろうと考えていた
しかし、先に夢の方で話す結果となった
「「寝た?」とか聞かないで、こういう面倒な事聞く人は嫌い」
と夢の中の私は忠告されていた
そんな事聞いたこともない
電波が悪くなり途中で切れ
そのまま東京に向かった
無事に着き携帯を見ると話していた人からチャットがきていた
私は気付かずさらに「中卒の癖に寝てるのかよ」と送られてきていた
とんでもなく理不尽だ
しかし、それを見た夢の中の私はまったく傷付かなかったどころか
現実にはお互い敬語で話す関係だったので
罵倒し会える仲にまで距離が縮まったのかと喜びすら感じていた
起きてからその事を思い出し
大分精神にガタがきているなと思った

そして肝心の東京
そこは私が想像していた東京の街並みとは駆け離れた姿をしていた
見渡す限りの海賊映画に出てきそうな大量の酒が乗った丸テーブル
そこに座って談笑する黒スーツ達
全員サングラスをかけ中には銃をテーブルの上に置いている者までいる
いかにも私達はマフィアの人間ですという身なりをした集団の溜まり場だった
止まない銃声と怒声
完全に寝る前観た
マトリックスのパクりかと思ったら映画史上に残るアクション映画だった」といった題名の短い動画を観て
マトリックスに登場する黒スーツを思い出したのが原因だ
私がマフィアを避けて通りを歩いていると
したり顔で「あいつは銃を持ってるぜ」と自身の洞察力を自慢するように黒スーツがひそひそと話していた
いや、銃なんて持っていない
濡れ衣で変な絡まれ方はしたくない勘弁して欲しい

そのまま通りを歩いていると殺人現場に遭遇した
ちょうど私の目の前で人が殺された
私は第一発見者として証言を求められたが
マフィアに上手く伝わらずアスペルガー症候群扱い
そのまま病棟に隔離された、マフィアふざけんな
脱出して今度こそ本当の東京へ向かおうとすると
怪物が現れ、行く手を阻んだ
手が沢山生えていて見るからに化け物といった風貌をしているが
顔はマフィアだった
これは昨夜HUNTER×HUNTERのキメラアント編が観たくなり
20分くらい観たのが原因で間違いないと思った

怪物に「弱いから消えろ」みたいな事を言われて東京へ向かおうとすると
必需品のおむつを忘れていたことに気付き(何故おむつが必需品なのか)
一度家へ帰宅した
いつの間にか鞄に入っていたサングラスを見付けた母に
「あんたサングラスなんか買って」と怒られ夢から覚めた
私の不安が顕著に表れた夢の連続だった


寝てしまった一因としては餅米を少し食べてしまったせいだ
今日に限って何故か餅米だった
食べない訳にはいかなかった

起きてからは急いで支度をして床屋へ行く
今までずっと美容院だったがあそこは洒落た音楽に良い香りが眠気を誘い首ががくんと落ちる
あれは恥ずかしい出来事にランクを付けるならかなり上位に喰い込む出来事だ
出来れば行きたくない

美容院のようにピンクとオレンジのオーラが漂っていない
見るからに床屋という建物に入った
今年は自分で髪を切り
ちゃんとした場所で切ってもらうのは久々だ
内観は意外と小洒落ている
いかにも床屋の親父といった人はいなかったが
若い理容師もいないようだったので安心した

毛先を遊ばせている二十代後半らしき人が担当してくれた
髪について聞かれたので自分で切ったというと器用だねと言っていた
まあ、オールバックは髪を梳き掻き上げるだけなので私でも簡単に出来る
シャンプーが終わり、髪を切り始めた
がっがっと頭皮が傷付くんじゃないかという程に強く櫛で髪を掻き上げ
その直後に優しく髪を撫で下ろす
この男、間違いなくDV男の素質がある

一通り私が考えていた理容師のしそうな事が終わると
急に理容師がポンポンと肩を叩き出した
リズミカルにずっとポンポンしている
頭、首、両肩を順にポンポンし出した
私の身体で音ゲーを始めたのか
何が起きているのか分からなかった
マッサージにしては軽過ぎる
想定外の未知な出来事に笑いそうになったが
歯を喰い縛り口角を押さえ付けた
結局何も知らされずリズミカルポンポンが終わった
私の中に違和感が残ったまま女性の理容師に交替した

女性の理容師は顔の無駄毛を剃るのが役目らしく
剃りやすいよう顔にジェルを塗り始めた
塗り終わり、顎に差し掛かる
すると女性理容師の指が私の唇を這った
一度ならず何度も唇の上を這い進んだ
何だかその指の動きがとても艶かしく
気圧されそうになった
しかし、逆の立場なら私にだってそれくらいの事は出来ると自分に言い聞かせ、堪えた

剃っている間に毛先遊ばせ理容師と坊主理容師が談笑し始めた
地震の話と、辞めた理容師の話
辞めた理容師は大学生が苦手らしく
坊主理容師に「大学生めんどくせえ」と言い辞めたそうだった
坊主理容師は若干韻を踏んでいるこの台詞を言っている内に気に入ったのか
「大学生めんどくせえってさ」「そうそう大学生めんどくせえ」
「大学生めんどくせえだよ」と毛先遊ばせに連呼していた
ラッパー志望か

理容師の会話に耳を傾けている内に剃り終わったらしく
顔全体をほぐす目的のマッサージが始まった
またとんでもなく艶かしい指の動きが始まったが
私でも出来ると強く念じ堪えた
マッサージが終わると唐突に鼻から下を覆うように熱いタオルをかけられた
熱すぎて肌が焼けそうだ
日焼けサロンの中もこれくらい暑いのだろうか
このまま日焼けしたら鼻から下だけ露出した鎧を頻繁に着用している人みたいになる
幾ら何でもそれは不名誉にも程がある

そんな事を考えているとタオルを外された
安心し、一呼吸ついた
すると今度は顔全体を大きな灼熱タオルに覆われた
完全に不意を突かれ、殺されるかと思った
何とか息を止め難を逃れる
ようやく女性理容師の役目が終わり毛先遊ばせ理容師に交替した

今度は機械を使った電動マッサージが始まった
どうやら先程のリズミカルポンポンはどの辺りが凝っているのか確かめているらしかった
ようやく謎が解けた
マッサージで血行が良くなった部分は痒くなるらしい
唾液が原因で痒くなる蚊とは随分違う
血行が良くなり痒くなるのは何故だ
良くなった部分は元気になり良くない部分と比べ盛り上がったりするのか
その違和を感知した身体が「奴らを抑えろ」
と命令を出し痒くなるのだろうか
世知辛い

最後に毛先遊ばせ理容師に「油付ける?」と訊かれた
油、恐らくワックスの事なのだろうが
美容師ならしないであろうその呼び方がとても床屋らしく好印象だった
油は少しだけ付けてもらった
お会計4000円を出し
300円引きのチケットを手に入れる
オールバックではないが
名前が分からない良い感じの髪型にしてもらった

店から出るとにこやかな老人が立っており
「ありがとう、またきてね。」と言われた
外にも刺客を用意している、なかなか油断ならない良い床屋だった

髪を切り、あとはコンビニ決済を終えるだけだ
近くのサークルKを探すと10分歩いた先にあるようだった
スマホ片手にGoogleマップを見ながら歩く
そんな自分の姿を客観視すると
未だにポケモンGOをやっている化石人間みたいだ
前方からシーラカンスが泳いでくる
なんて思われたら堪らないと思いスマホをしまった

サークルKを見付け、コンビニ決済を済ませる
レジで領収書を受け取り出ようとすると
缶コーヒーを片手に並んでいたおじさんが店員に向かって
「なんやあれ、学歴か?」と言うのを耳にした
どうやら5500円で私が学歴を買ったと勘違いしたらしかった
あのおじさんは私が中卒だと看破したという事か
だとするとただ者ではない
それとも私から中卒オーラがでているのか
いや、あのおじさんが物事の本質を見抜く慧眼の持ち主なんだろう
そういう事にして気を沈める
不安になるからやめて欲しい

帰り道少女の群れが前方から迫ってきていたので
迂回して回避した
幼い少女程何を口にするか分からない脅威だ

帰宅すると、犬が寄ってきた
珍しい匂いを持ち帰ったからか
10分間程フンフンフンフンと上半身を嗅いでいた
身体検査か何かか


帰宅しブログを書いていると、もう21時だ
そろそろバス停へ向かおう、必ず生きて帰る。