屋上にて

冬が近付き、見事に風邪を引いた。

十月に連絡が取れなくなると書いた人は
一足遅かったようで音沙汰がなくなってしまった
気分を変える為屋上に出た、体育館並みの広さだ
屋上をぼけぇと歩いていると避雷針に結び付けられた丈夫で黒いロープに頭を、地面から突き出ている目立たない鼠色の突起物に片足をぶつけたりした
暗くてどこに何があるのかわかりづらい

せっかくこんな開放的な空間にいるのだから誰かと会話しようと思い
前から気になっていた人に声を掛けた
しかし、声でのやり取りは社交的な人間という訳ではないから難しいと断られてしまった
谷崎潤一郎 著書「春琴抄」について語る様は私の求めている見識のある人間そのものだ
その人はホームレス生活をしていたらしく
ホームレス生活をする計画を立てている私としては是非とも話してみたかった

新しい人とは話せなかったがオンナ(仮名)さんと話をした
オンナさんは時折過疎な配信サイトで配信を行っている人で、私が屋上にいる間に始めたようだった
身内に不幸があったらしい
身近な人にはまだ言い難く、顔も知らないくらい縁の薄い人と話したいとの事だった
その配信はすぐに終わったので私は早速かけてみた
オンナさんは女性性を持った男性で美容に詳しかったりする

過去に何度か話したことがある
メモを見るに27人目に話した人だ
会話の内容と言えば、その不幸にはお互い触れず世間話や私の悩みを相談した
オンナさんには相方のような人がいる
時折二人で配信しており
基本的にオンナさんが相方をいじり笑いが生まれる構図だ
そのお互い気軽に小突き合える関係が羨ましいと思っていた
私は嫌われるのが怖い訳ではないが、敬語を使い冗談も言わないので心地好い軽妙な会話という物が出来ない
そしてオンナさんに「僕のような人間が面白くなるにはどうすれば良いのか」と半ば投げ遣りな質問をした
答えとしては「場数を踏むこと」だった
オンナさん曰く、私は考えてから言葉を口にする事が多いので
もっと何も考えず思い付いた冗談を口にしてみたら良いのではないか
思った事をそのまま口にして怒る人は意外と少ないとの事

確かに常に考えてから言葉を口にするのは身構えているという事で
軽妙な会話には繋がらない
お互い小突き合える人間関係の貴重さについては「真剣な話なら誰とでも出来る」と目から鱗な言葉を言っていた
たまに会話が苦手という人がいる
ああいう人はもしや会話は面白くなければいけない物と考えているから苦手意識があるのではないか
私は会話なら普通に出来ると考えていたが普通の会話しか出来ない事に気が付いた
この活動自体、利己的な信念を基に始めた事で
会話に苦手意識を持つ人よりも会話を盛り上げようという意識が低いかもしれない


オカマキャラが生まれた理由は小学生の頃、会話の際に身ぶり手振りを交えて話してるのを見た友人から「おばちゃんみたい」と言われた事がキッカケらしい


問題を再認識して少し情けない気持ちになり
オンナさんの言葉を頭の片隅に置き
この活動を早く完遂しようと誓った
何度か話した事がある人という事もあり、いつも使う質問一覧は使わなかった
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相当寛大な人でなければ殆どが「どうしてこんな事を初対面の人に言わなければいけないのか」というような物が多い
まだ誰にもしていない質問、個人的に気になっているくだらない質問も幾つかある
下のは戒めだ
20人に届かない辺りでは結構頼っていた気がする
最近はあまり頼らなくなってきた
初対面なのだからここから質問を選ばなくても会話は広げられるが
やはり聞いてみたい事なので機を逸したならまた今度、話す切欠になるだろうと考えた

オンナさんとの会話を終え
好きな人に電話をかけて風邪を心配されたくなったが、咳が酷くなり
これは耳障りだなと思い断念

ふと通知を見ると、連絡が取れなくなっていた人から女性がランニングしているスタンプが送られてきていた
またいなくなる前に連絡しようと思い
屋上から出ようとしたとき、夜の帳に紛れた真っ黒いぴんと張ったロープに足を取られ盛大に転びかけた
次来るときは用心しよう。