まだ見ぬ東京への情景

窓を開けると部屋に冷気が流れ込む
そろそろ肌寒くなってきた
もうクリスマスツリーを出している家を見掛けた
そろそろ霜月の季節だろうか


明日、東京へ行く
今日の23時出発の夜行バスに乗り22日の朝6時に到着する
昨日、東京で会う大学生男性と社会人男性の二人と計画し
行き方も教えてもらい不安は取り除かれた
しかし、二人と話を終えたあと
また不安が芽生え、遠足が楽しみで仕方ない子どものように落ち着かず4時頃まで眠れなかった
それから9時に起きたが、三度寝くらいしてしまい14時に起きた
三度寝の間に見た夢はそれぞれ東京に関する私の心情を表していた

東京に行く事が決まり、話したい人に連絡を取ろうと考えていた
しかし、先に夢の方で話す結果となった
「「寝た?」とか聞かないで、こういう面倒な事聞く人は嫌い」
と夢の中の私は忠告されていた
そんな事聞いたこともない
電波が悪くなり途中で切れ
そのまま東京に向かった
無事に着き携帯を見ると話していた人からチャットがきていた
私は気付かずさらに「中卒の癖に寝てるのかよ」と送られてきていた
とんでもなく理不尽だ
しかし、それを見た夢の中の私はまったく傷付かなかったどころか
現実にはお互い敬語で話す関係だったので
罵倒し会える仲にまで距離が縮まったのかと喜びすら感じていた
起きてからその事を思い出し
大分精神にガタがきているなと思った

そして肝心の東京
そこは私が想像していた東京の街並みとは駆け離れた姿をしていた
見渡す限りの海賊映画に出てきそうな大量の酒が乗った丸テーブル
そこに座って談笑する黒スーツ達
全員サングラスをかけ中には銃をテーブルの上に置いている者までいる
いかにも私達はマフィアの人間ですという身なりをした集団の溜まり場だった
止まない銃声と怒声
完全に寝る前観た
マトリックスのパクりかと思ったら映画史上に残るアクション映画だった」といった題名の短い動画を観て
マトリックスに登場する黒スーツを思い出したのが原因だ
私がマフィアを避けて通りを歩いていると
したり顔で「あいつは銃を持ってるぜ」と自身の洞察力を自慢するように黒スーツがひそひそと話していた
いや、銃なんて持っていない
濡れ衣で変な絡まれ方はしたくない勘弁して欲しい

そのまま通りを歩いていると殺人現場に遭遇した
ちょうど私の目の前で人が殺された
私は第一発見者として証言を求められたが
マフィアに上手く伝わらずアスペルガー症候群扱い
そのまま病棟に隔離された、マフィアふざけんな
脱出して今度こそ本当の東京へ向かおうとすると
怪物が現れ、行く手を阻んだ
手が沢山生えていて見るからに化け物といった風貌をしているが
顔はマフィアだった
これは昨夜HUNTER×HUNTERのキメラアント編が観たくなり
20分くらい観たのが原因で間違いないと思った

怪物に「弱いから消えろ」みたいな事を言われて東京へ向かおうとすると
必需品のおむつを忘れていたことに気付き(何故おむつが必需品なのか)
一度家へ帰宅した
いつの間にか鞄に入っていたサングラスを見付けた母に
「あんたサングラスなんか買って」と怒られ夢から覚めた
私の不安が顕著に表れた夢の連続だった


寝てしまった一因としては餅米を少し食べてしまったせいだ
今日に限って何故か餅米だった
食べない訳にはいかなかった

起きてからは急いで支度をして床屋へ行く
今までずっと美容院だったがあそこは洒落た音楽に良い香りが眠気を誘い首ががくんと落ちる
あれは恥ずかしい出来事にランクを付けるならかなり上位に喰い込む出来事だ
出来れば行きたくない

美容院のようにピンクとオレンジのオーラが漂っていない
見るからに床屋という建物に入った
今年は自分で髪を切り
ちゃんとした場所で切ってもらうのは久々だ
内観は意外と小洒落ている
いかにも床屋の親父といった人はいなかったが
若い理容師もいないようだったので安心した

毛先を遊ばせている二十代後半らしき人が担当してくれた
髪について聞かれたので自分で切ったというと器用だねと言っていた
まあ、オールバックは髪を梳き掻き上げるだけなので私でも簡単に出来る
シャンプーが終わり、髪を切り始めた
がっがっと頭皮が傷付くんじゃないかという程に強く櫛で髪を掻き上げ
その直後に優しく髪を撫で下ろす
この男、間違いなくDV男の素質がある

一通り私が考えていた理容師のしそうな事が終わると
急に理容師がポンポンと肩を叩き出した
リズミカルにずっとポンポンしている
頭、首、両肩を順にポンポンし出した
私の身体で音ゲーを始めたのか
何が起きているのか分からなかった
マッサージにしては軽過ぎる
想定外の未知な出来事に笑いそうになったが
歯を喰い縛り口角を押さえ付けた
結局何も知らされずリズミカルポンポンが終わった
私の中に違和感が残ったまま女性の理容師に交替した

女性の理容師は顔の無駄毛を剃るのが役目らしく
剃りやすいよう顔にジェルを塗り始めた
塗り終わり、顎に差し掛かる
すると女性理容師の指が私の唇を這った
一度ならず何度も唇の上を這い進んだ
何だかその指の動きがとても艶かしく
気圧されそうになった
しかし、逆の立場なら私にだってそれくらいの事は出来ると自分に言い聞かせ、堪えた

剃っている間に毛先遊ばせ理容師と坊主理容師が談笑し始めた
地震の話と、辞めた理容師の話
辞めた理容師は大学生が苦手らしく
坊主理容師に「大学生めんどくせえ」と言い辞めたそうだった
坊主理容師は若干韻を踏んでいるこの台詞を言っている内に気に入ったのか
「大学生めんどくせえってさ」「そうそう大学生めんどくせえ」
「大学生めんどくせえだよ」と毛先遊ばせに連呼していた
ラッパー志望か

理容師の会話に耳を傾けている内に剃り終わったらしく
顔全体をほぐす目的のマッサージが始まった
またとんでもなく艶かしい指の動きが始まったが
私でも出来ると強く念じ堪えた
マッサージが終わると唐突に鼻から下を覆うように熱いタオルをかけられた
熱すぎて肌が焼けそうだ
日焼けサロンの中もこれくらい暑いのだろうか
このまま日焼けしたら鼻から下だけ露出した鎧を頻繁に着用している人みたいになる
幾ら何でもそれは不名誉にも程がある

そんな事を考えているとタオルを外された
安心し、一呼吸ついた
すると今度は顔全体を大きな灼熱タオルに覆われた
完全に不意を突かれ、殺されるかと思った
何とか息を止め難を逃れる
ようやく女性理容師の役目が終わり毛先遊ばせ理容師に交替した

今度は機械を使った電動マッサージが始まった
どうやら先程のリズミカルポンポンはどの辺りが凝っているのか確かめているらしかった
ようやく謎が解けた
マッサージで血行が良くなった部分は痒くなるらしい
唾液が原因で痒くなる蚊とは随分違う
血行が良くなり痒くなるのは何故だ
良くなった部分は元気になり良くない部分と比べ盛り上がったりするのか
その違和を感知した身体が「奴らを抑えろ」
と命令を出し痒くなるのだろうか
世知辛い

最後に毛先遊ばせ理容師に「油付ける?」と訊かれた
油、恐らくワックスの事なのだろうが
美容師ならしないであろうその呼び方がとても床屋らしく好印象だった
油は少しだけ付けてもらった
お会計4000円を出し
300円引きのチケットを手に入れる
オールバックではないが
名前が分からない良い感じの髪型にしてもらった

店から出るとにこやかな老人が立っており
「ありがとう、またきてね。」と言われた
外にも刺客を用意している、なかなか油断ならない良い床屋だった

髪を切り、あとはコンビニ決済を終えるだけだ
近くのサークルKを探すと10分歩いた先にあるようだった
スマホ片手にGoogleマップを見ながら歩く
そんな自分の姿を客観視すると
未だにポケモンGOをやっている化石人間みたいだ
前方からシーラカンスが泳いでくる
なんて思われたら堪らないと思いスマホをしまった

サークルKを見付け、コンビニ決済を済ませる
レジで領収書を受け取り出ようとすると
缶コーヒーを片手に並んでいたおじさんが店員に向かって
「なんやあれ、学歴か?」と言うのを耳にした
どうやら5500円で私が学歴を買ったと勘違いしたらしかった
あのおじさんは私が中卒だと看破したという事か
だとするとただ者ではない
それとも私から中卒オーラがでているのか
いや、あのおじさんが物事の本質を見抜く慧眼の持ち主なんだろう
そういう事にして気を沈める
不安になるからやめて欲しい

帰り道少女の群れが前方から迫ってきていたので
迂回して回避した
幼い少女程何を口にするか分からない脅威だ

帰宅すると、犬が寄ってきた
珍しい匂いを持ち帰ったからか
10分間程フンフンフンフンと上半身を嗅いでいた
身体検査か何かか


帰宅しブログを書いていると、もう21時だ
そろそろバス停へ向かおう、必ず生きて帰る。

似ている二人

風邪もすっかり完治し、平日がやってきた
外から心地好い雨の音がする

工事の影響か、ベランダへ通じている窓が今までにない程汚れている
何だか、おたまじゃくしの皮膚の表面みたいだ
まだ工事期間なのですぐにまた汚れるだろうと思い洗わずカーテンを閉めた

暗くなった部屋
このまま映画を観ようと思った
観る作品は京極夏彦の「姑獲鳥の夏
原作は読了済みだ
ベッドの上でうつ伏せになって観始めた

白黒の風景写真が続々と表示され始まる
登場人物が一通り出揃った
探偵 榎木津礼二郎役が阿部寛
木場修太郎役は宮迫博之だったが、阿部寛は余りにも落ち着き払っており、破天荒なあの探偵像とは程遠く
宮迫博之は映る度に例の顔と手の動きを駆使したあの奇怪な動きが脳裏を掠めた
京極夏彦の作品が醸し出す妖気めいた雰囲気をあの手の動きで左右に掻き乱されている気分だった
妖気はすっかり雲散霧消した
真四角の顔をした刑事は遠藤憲一が嵌まり役だろうと
小さな不満を抱きながらも観続けた

固定カメラを使ったシーンが多く、効果音は時代を感じさせる
後半では、久遠寺涼子の母 久遠寺菊乃が原作とは違った結末を辿り
涼子に蹴られ、ぴぎぃと潰された蛙のような声を出しながら背中から地に倒れる菊乃は
久遠寺家にかけられた呪い「蛙の赤子」を彷彿とさせる

醜く、恐ろしい物だと畏怖の念を抱き
赤子に非人道的な行いをしていた久遠寺菊乃
その彼女自身が不細工な鳴き声を発しながら転倒する様は見事なカタルシスであり
これは原作にない良い点だ

観終えた感想としては
スタッフ側が用意した映画でこそ映える演出
遊び心に気付けた事に少し得意気になれたので
映画「姑獲鳥の夏」の最終的な印象はそこまで悪くならず
近々「魍魎の匣」の方も観てみる事にした


そういえば、インタビュー活動で知り合った人と少しだけ京極夏彦の作品について話した事がある
どれくらい前に話した人なのか調べた
私は人と話す際には記録としてボイスレコーダーを使い
「あめんぼあかいなあいうえお」と発声練習をする
会話を終えた後にその記録に話した人物の名前を入れるようにしているのでこういう時に便利だ
どうやら去年の九月頃に話した人らしい
思ったよりも昔で、活動を始めて15人目に話した人だ

名前をヒトデ(仮名)としよう
ヒトデさんは三十路の女性なのだが、三十路とは思えない程
良い意味で少女らしさが残っている人だ
ヒトデさんも前の記事で書いたオンナさんと同様
過疎な配信サイトで時折配信をしていた人だ
去年、私が初めて彼女と話した時はまだ三十路ではなく
三十路になったらちゃんとした大人としてネットから離れ
配信も辞める心積もりだったようで
宣言通りいなくなり連絡も取れなくなった

彼女は接しやすく、立派な考えを持っているが少々抜けたところがあった
私が返答に窮していると
「困ってる」「考えてる」と少しだけ楽しそうにしながら口にした
そして彼女が悩んでいる時は決まって「うーん」という
ただの「うーん」ではなく、とても可愛らしい「うーん」が出る
普段は落ち着いた大人びた声なのだが、くしゃみをする時は何故か声が高くなり
普段よりも聴き心地が好い声が出る
基本しっかりしている人なのだが、そうした抜けた部分がある
隙というのだろうか
隙がある人は魅力的というが彼女にはその言葉がよく当てはまっているように思える

私が初めて話した時はアイスランドから帰ったばかりのようで
アイスランド土産の琥珀の話をしてくれた
琥珀が樹液から出来ている事を知って驚いた
私も負けじと琥珀に似ている昆虫を教える
マダラカマドウマという虫を教えたら画像検索したらしく
「気持ち悪ーい!」ととても良いリアクションをしてくれた

ヒトデさんは綺麗なボブカットをしており
森見登美彦 著書「四畳半神話大系」の登場人物
「明石さん」に雰囲気がとても良く似ていた
ヒトデさんからは上流階級の匂いがし
尋ねてみると「私は違いますけど友達はそうです」との事だった
どちらにせよ育ちが良い人という認識は変わらなかった
私が彼女は育ちが良い人と確信した出来事がある
京極夏彦の作品に登場する榎木津礼二郎という破天荒な探偵の話になった際に
榎木津礼二郎さんは~」と小説上の架空の人間に対して「さん付け」をしたのだ
これには驚き、やはりこの人はただ者ではないと確信した
もしかしたら榎木津礼二郎という人間が眉目秀麗の美男子という設定で
好きな人物だから「さん付け」なのではないかと考えもしたが
榎木津礼二郎以外にも癖の強い登場人物は多く
その全員に分け隔てなく「さん付け」をしているヒトデさんがいとも容易く思い浮かんでしまうのでその可能性は捨てた
まあ、もしそうだとしてもだから何なのだという話なのだが…

本の話もした
ヒトデさんが好きなムーミンの本や
面白そうな本を幾つか教えてもらった
その一つに坂田靖子 著書「時間を我等に」という物があった
作品集のような物で、不思議で難解な本だった
読み終えた後に調べてみると
マルセル・デュシャンサルバドール・ダリ等の作品が上手く組み込まれている
美術的教養があるとより楽しめる本のようだった

ヒトデさんは学生時代
授業を受けず保健室で本ばかり読んでいたと私に話してくれた
同学年の女子生徒数人と何かあったようで
もっと勉強しておけば良かったと溢していた
続けて「大人はみんなこの台詞を言うよね」と言っていた
私も教養のなさを気にしているので
「子どもだって言いますよ」と返したら笑ってくれた
何だか悪い気がして
学生時代の話を余り掘り下げられなかった事を少し後悔している

どうしてヒトデさんは学生時代の事を話してくれたのかと考えると
そういえば私が年齢を教えたからだった
17才と明かした時は大変驚いた様子で
それからしばらくの間は数分に一度
「偉い」「すごい」と頻繁に口にしていた
確か、その前に頻繁に口にしていた言葉は
「どこがコミュ障なんですか」だった
年齢を明かす前、話し始めて数十分に一度は言われていた
話した人が20人にも満たない頃
まだ「コミュ障」を盾にしていた頃だ
ヒトデさんにコミュ障を治す為にという理由でかけたからそんな事を言われたのだ
そして、その日を境にコミュ障という言葉に頼らなくなった
未だに敬語には頼りっぱなしだが
一つ、問題が減ったのはヒトデさんのお陰だ

ヒトデさんは清廉潔白に生きているようで
純粋さを感じる事が多い

祭りの話になった時、私が祭りに行く約束をして結局行かなかった話をした
何人か来るからおいで、くらいの軽い話だった
ヒトデさんは少し笑いながら「クズですね」と言った
その通りだと思ったし、ヒトデさんも笑っていたのでまったく気にしていなかった
九月から十月に変わった次の日の朝
ヒトデさんから連絡が来ていた
クズと言った事をすごく気にしていたようで内容は謝罪文だった
その文から誠実さという物を強く感じた

夜更け、ヒトデさんと話している時に空で月を囲むようにして虹が掛かっていた
そんな虹見た事ないと言うので写真を撮ったが上手く映らなかった
数日経った次に話した時、あの時見た虹は暈という物らしく
虹は空気中の水分が反射して出来る物
暈は氷が反射して出来る物でと話しているとパシャリという音を耳にした
どうやら調べてそのページを撮ったようだった
「初めて知った、わざわざ教えてもらったから」と言っていた

自分がした失言、してもらった事に対して大袈裟というか
本当に誠実で魅力的な人だと思うばかりだった

年齢を明かしただけで、ヒトデさんは私の事を学生だと思っている
こういう、話せば私の理解者になってくれるだろうなという人に程
身の上話をする事が卑怯な事に思えて仕方なく、する事が出来ない
私が身の上話をする時と言えば
問い詰められて誤魔化せず、言い訳をするかのように話し出す時だけだ

そういえばヒトデさんと似た
私が直接言葉で身の上話をした数少ない人がいた
その人の事も書いておこう
ヒトデさんとあの人は同じ記事で纏めておきたい


名前はミドリ(仮名)とする
二十代後半か三十代前半の男性で
私がインタビュー活動を始めようと思い一番初めに話した人物だ
ミドリさんも時折過疎サイトで配信をしている人で
もう度肝を抜かれる程に饒舌な人だ
何度か話した内、夕方から話し始めて夜まで10時間続けて話した事が一度だけある
私はあの時の記憶が殆どないが恐らく相槌をする機械と化していた事だと思う
私が音楽の元ネタを知っている事にテンションが上がる彼
漫画の話、後半はもう布団を被りながら話していた事
会話を終えた後はまるで電池が切れてしまったように眠りこけた事はしっかり覚えている

何故そこまでの長時間話し続けられるのかというと
彼が情熱的な人間だという事に他ならない
情熱的と言っても「熱くなれよ」が口癖の元プロテニスプレイヤーや
口許に薔薇を加えて耳許で愛を囁くといった情熱の在り方ではない
もっとこう、身体の芯の底で煮え滾るマグマのよう
肯定の言葉を簡単には信用しないで飲み込む事をせず
表現という物を工夫するよう意識を働かせ
マグマが大分高い頻度で上昇し
口から出る言葉にはその熱がこもり
中々対等に渡り合える熱量を持った活火山が現れず
最早期待は捨て存分に登山者へと容赦ない量の火の粉を振り撒き浴びせる

僻地に鎮座する活火山
そんな男だ
かなり好き勝手に書いたが私はそういう男だと思っている

ミドリさんは学生時代放送研究部だったようで
そのお陰か少しの水分だけで何時間も保ち
喋り続けていられる常人離れした体力を持っている
ミドリさんと初めて話した時は屋上から掛け
屋上にいる事を何故か酷く驚いていた、それだけの記憶しかない
初めてSkypeを使って人と話したから終始緊張していた気がする
私が好きなアーティストの歌詞が抽象的なので
知識人に見せたらどんな解釈をするのか楽しみにしていた事を思い出し
ミドリさんに見せると私が考えもしなかった事を次々口にするので
とても新鮮でもっと色々聴いて貰いたいと思った記憶が強く残っている
ラップミュージックについて話せる数少ない一人でもある
無意味に攻撃的なこれぞ世間が抱くHIPHOPイメージど真ん中という物に関心がない事も共通点
次から次へとマイナーな曲を送り付けるから軽く怒られた事もあったが
その内の一つ、私の好きなアーティストが強く影響を受けた
不可思議/wonderboyの「Pellicule」という曲が好感触だったようで送り付けた甲斐があった

大分話が脱線したので言い訳の話に戻すと
どういう話の流れか定かではないが
ミドリさんに問い詰められ身の上話をした

精神病院に入院していた頃の話
病院に入ってすぐ六人部屋に案内された

すぴいぃ…ごろろろぉ んがーっ んがーっ
んん…んんん…んんん… ふがっ ふっ…すぴ(ry

これぞまさしく動物園だと思った
見事と言わざるを得ない多種多様な鳴き声
いびきをかく患者のみなさんが出迎えてくれた
まあ、当然そんな環境では眠りにつく事なんて出来ないので
毎晩部屋から出て朝までずっと明るい廊下で京極夏彦の作品を立ち読みしていた
あそこまで変幻自在ないびきは初めて耳にした物で
流石におかしいだろと思い看護師に話を聞いた
どうやら睡眠薬の副作用らしい
無理矢理眠らせるから病室が南米ジャングル状態になる
それって結構問題なのではないかと思ったが
私は回避する術を身に付けたので口にしなかった
そして当然睡眠薬を渡されても本人が眠っている時に身体から多種多様な鳴き声が発せられているなど御免蒙るので断固拒否した

暫くすると個室が空いたようで私がそこへ移動する事になった
若い事を考慮して気を利かせてくれたのだろうか

真っ白で清潔感のある部屋だった
入口近くのカーテンを開くと洗面台と便器が
硝子が張られている方向には机と椅子があり
六人部屋では眺める事が出来ないような景色が広がっていた
その日は風が強く、雲の流れが速かった
本に飽きてふと外を見ると
様々な形の雲が立て続けに流れてくる
妖怪が登場する京極夏彦の本を読んでいたからか
流れてくる雲に妖怪の姿を与える事が容易かった
これは是非スケッチしようと意気込んだが手元にはシャーペンしかなく断念した
雲に妖怪の姿を与える遊びにも飽きて本を読み進める
この部屋はとても快適だった
一つ問題があるとすれば鍵がかけられない事だ
仕方ない事だとは分かっていたが、予期せぬ来客は訪れる

ある日、私がいる部屋の扉を開けて緩慢な動作で侵入してくる者が現れた
赤いババシャツを着た老婦だった
私に見向きもせず入口近くのカーテンを開き入って行く
トイレの場所でも忘れたのだろうか
不審に思い「どうしたんですか」と声を掛けた
すると、便器の前で直立不動を保っていた老婦がこちらを振り返り
少し恥ずかしそうに
「赤ちゃんをね、産むからね。」と言った
言い終わるとまた便器の前で直立不動
ここで産んでもらっては困るので私は看護師を呼んで連れ去ってもらった
老婦がいなくなり、白い個室に再び平穏が訪れたが
もしあのまま老婦を放置していたらどうなっていたのか
余計な考えを張り巡らせ、少しだけ身震いした


この話をミドリさんにすると
老婦の言葉が大分衝撃的だったようで
何とも言えない笑いが起きた
私としては言い訳のように始めた身の上話
それを笑いに終着させる事が出来た、老婦に感謝
身の上話を聞いた後もミドリさんは変わりなく
彼らしいなと思った
ヒトデさんに話さなかった事を後悔しているかというと
それは余りしていない
話せば彼女は恐らく私を労ってくれるだろう
しかし、距離は変わらず
寧ろ根本的な距離は空いてしまうのではないかとすら思う
私には人を繋ぎ止めて於ける程の力がない
人は離れて行くばかりだ
ここ最近でそれを強く実感した
やはり話さなくて良かったと思う

ミドリさんとヒトデさんは価値観、性格も大分違うが似ている
二人ともアナログ絵が上手い
しっかり論理的に物事を考える事が出来る
滲み出ている「良い子」オーラ
情けないが私が文章にして挙げられる部分といえばこの程度だ
そういえばミドリさんは天寿を全うしたいらしく
ヒトデさんはとっとと夭折してしまいたいらしかった
こういう部分も食い違っているのだが何だか似ていると思ってしまう
価値観や性格とは別に似た雰囲気を持っている
私の中で「あの二人が結ばれて欲しい」という気持ちがある
あの二人が結ばれたのなら結構キツめの喧嘩もするだろうが
しっかり仲直り出来ると思う
二人の子どもはさぞ幸せな事だろう
というか私があの二人を両親として欲しかった
こんな母親、父親が良かったなんて反抗期らしい願い
抱いた事はなかったけれど
この二人を思い浮かべるとどうしてもそう思ってしまう
一つ屋根の下であの人達の子どもとして生活している
とか、そういうイメージは流石に阿呆らしいのでしないが
あの二人が親とまでは行かなくても
近所に、身近にいる人なら良かったのにと強く、そう思う

これ以上書くと虚しくなりそうなのでそろそろ止めにしよう
思いの外、長々と書いてしまった
雨はすっかり止み
何だか窓のおたまじゃくしっぷりに磨きがかかったような気がする
あの人を親に欲しかったと子どもめいた事を書いた幼さ
そんな私の心を反映しているようだった
けど、同じ記事にあの二人の事を纏める事が出来て良かった

そういえばヒトデさんはライダースーツを着た女性が好きで
絵も描いたそうだが恥ずかしいらしく見せてはくれなかった
調べ物をしている時にたまたま見付けたヒトデさんが好みそうなライダースーツ姿の女性の写真があった
彼女に見せてあげたかったが
もうそれは叶わないのでここに置いておく事にする
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今回は少し早めに更新出来た
青臭い願いはここに封をして、寝る支度を始めよう。

屋上にて

冬が近付き、見事に風邪を引いた。

十月に連絡が取れなくなると書いた人は
一足遅かったようで音沙汰がなくなってしまった
気分を変える為屋上に出た、体育館並みの広さだ
屋上をぼけぇと歩いていると避雷針に結び付けられた丈夫で黒いロープに頭を、地面から突き出ている目立たない鼠色の突起物に片足をぶつけたりした
暗くてどこに何があるのかわかりづらい

せっかくこんな開放的な空間にいるのだから誰かと会話しようと思い
前から気になっていた人に声を掛けた
しかし、声でのやり取りは社交的な人間という訳ではないから難しいと断られてしまった
谷崎潤一郎 著書「春琴抄」について語る様は私の求めている見識のある人間そのものだ
その人はホームレス生活をしていたらしく
ホームレス生活をする計画を立てている私としては是非とも話してみたかった

新しい人とは話せなかったがオンナ(仮名)さんと話をした
オンナさんは時折過疎な配信サイトで配信を行っている人で、私が屋上にいる間に始めたようだった
身内に不幸があったらしい
身近な人にはまだ言い難く、顔も知らないくらい縁の薄い人と話したいとの事だった
その配信はすぐに終わったので私は早速かけてみた
オンナさんは女性性を持った男性で美容に詳しかったりする

過去に何度か話したことがある
メモを見るに27人目に話した人だ
会話の内容と言えば、その不幸にはお互い触れず世間話や私の悩みを相談した
オンナさんには相方のような人がいる
時折二人で配信しており
基本的にオンナさんが相方をいじり笑いが生まれる構図だ
そのお互い気軽に小突き合える関係が羨ましいと思っていた
私は嫌われるのが怖い訳ではないが、敬語を使い冗談も言わないので心地好い軽妙な会話という物が出来ない
そしてオンナさんに「僕のような人間が面白くなるにはどうすれば良いのか」と半ば投げ遣りな質問をした
答えとしては「場数を踏むこと」だった
オンナさん曰く、私は考えてから言葉を口にする事が多いので
もっと何も考えず思い付いた冗談を口にしてみたら良いのではないか
思った事をそのまま口にして怒る人は意外と少ないとの事

確かに常に考えてから言葉を口にするのは身構えているという事で
軽妙な会話には繋がらない
お互い小突き合える人間関係の貴重さについては「真剣な話なら誰とでも出来る」と目から鱗な言葉を言っていた
たまに会話が苦手という人がいる
ああいう人はもしや会話は面白くなければいけない物と考えているから苦手意識があるのではないか
私は会話なら普通に出来ると考えていたが普通の会話しか出来ない事に気が付いた
この活動自体、利己的な信念を基に始めた事で
会話に苦手意識を持つ人よりも会話を盛り上げようという意識が低いかもしれない


オカマキャラが生まれた理由は小学生の頃、会話の際に身ぶり手振りを交えて話してるのを見た友人から「おばちゃんみたい」と言われた事がキッカケらしい


問題を再認識して少し情けない気持ちになり
オンナさんの言葉を頭の片隅に置き
この活動を早く完遂しようと誓った
何度か話した事がある人という事もあり、いつも使う質問一覧は使わなかった
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相当寛大な人でなければ殆どが「どうしてこんな事を初対面の人に言わなければいけないのか」というような物が多い
まだ誰にもしていない質問、個人的に気になっているくだらない質問も幾つかある
下のは戒めだ
20人に届かない辺りでは結構頼っていた気がする
最近はあまり頼らなくなってきた
初対面なのだからここから質問を選ばなくても会話は広げられるが
やはり聞いてみたい事なので機を逸したならまた今度、話す切欠になるだろうと考えた

オンナさんとの会話を終え
好きな人に電話をかけて風邪を心配されたくなったが、咳が酷くなり
これは耳障りだなと思い断念

ふと通知を見ると、連絡が取れなくなっていた人から女性がランニングしているスタンプが送られてきていた
またいなくなる前に連絡しようと思い
屋上から出ようとしたとき、夜の帳に紛れた真っ黒いぴんと張ったロープに足を取られ盛大に転びかけた
次来るときは用心しよう。

お茶

あれから二ヶ月経った
鈴虫の声が時の経過を報せ胸が苦しくなる

頼りにしているネットの人と十月に連絡が取れなくなる
十月になる前に話しておきたいことを話しておこうと思い昨夜チャットを送った
まだ返事は返ってきていない

夢の中で母親を統合失調症扱いした
「君の母親とまともに受け答えができなかった」と言った医者に私がそう訴えた
否定はしなかったが納得したようだった

ふと、家族を全員私が手にかけたらどうなるだろうか考えた
この家の者がいなくなっても、誰も悲しんではくれなさそうだ
それだけまともに人付き合いが出来ない人間が揃っている

この家から出る為、ホームレス生活をしてみようか考えた
思い返せば警官に話した事があった

警官にはそうなったら犯罪を犯す可能性があるから補導すると言われた
そんなことはしないと言ったが、人間は追い込まれたら犯罪の一つや二つは犯す と言われ、初めて警官から説得力というものを感じた


約二ヶ月間も更新しないのは自堕落にも程がある
人とのやり取りを書く気力はないから、こんな文でお茶を濁す。

自堕落なインタビュアー

暑さも心地よい程度の物となり
蝉の声も日々に馴染んできた頃
もうすぐ八月を迎える

私は相変わらず自堕落な日々を送っていた

高校を辞め、これといった労働もせず二年半の歳月が流れ
電波の彼方にいる友人達が大学生となり
「2016年、自分もそろそろ高校三年生の年齢か。」と感慨に耽っていた

「彼らはどの大学へ行くのだろうか。」と昔の友人達をツイッターで検索し覗いてみた
すると皆既に大学へ通っている様子だった。

いつの間にか大学一年生の年齢になっていた事に驚き
気付いてから少しの間は焦燥に駆られていた
四月頃の話だ


高校を辞める前は「こんな家庭で育ったのだからどうせ何をやってもダメだ」という理由で現実から目を背け
高校を中退してからはそこに中卒とニートという肩書きが加わった


斯斯然々の事情で2015年中には精神病院で二ヶ月間留置所で二週間鑑別所で三週間過ごし
あと少年院と刑務所でコンプリートという危機的状況になり
ようやく私はある目標を立てた

“100人と雑談をする”
インターネットの見ず知らずの人
一方的に知っている人に声を掛け雑談して貰うという趣旨
Skypeを使い初対面の人と30分以上話したら一人とカウントする
Skypeちゃんねる等のサイトは使わない


まあ雑談というより幾つか質問を私の方で用意し
質問した話題を広げて行くやり方なので
余りにも広げられていない時なんかは本当にインタビュアーのようになる
実際知人にそう揶揄されてしまった

この活動は社会復帰へのリハビリみたいな物で
去年の7月からのろのろ続けて現在は51人の人と話した
三日前にようやく折り返し地点に立ったが
ここからさらに50人と話すのかと思うとなかなか気が遠くなる
どうにかして今年の内に達成してしまいたい

鑑別所で職員として働いていたカエルのような顔の臨床心理士には「君の方に問題はない」と
少年審判の裁判官には「君は個性の域を脱している」と食い違う意見を貰ったが
私は自身の事を「勉強の出来ない、病人という訳でもない無個性な青年」と評価している
そしてこの自己分析は概ね正しい物だと自負している

不安障害、離人症のケがあるような気がしたけれど
それはその日にまともな食事を摂ったかどうかで決まるような気もしたのでその可能性は捨てた
病人なら少しは私という人間の存在もマシだったのだけど
妙に健全な部分があるので救いようがなく
この人格を返上してしまいたい衝動に駆られる

病人という訳でもない無個性な青年におおよそ褒められた物ではない肩書き

ここからどれ程の人間になるのか
中途半端に終わるならいっそ少年院と刑務所にも入りコンプリートするか
N高等学校に入学すればネタとして少しは面白いか
ああでもN高はそこそこ勉強が出来ないと入れなかったか…等

散々熟考した結果がSkype活動だ
6月までこの活動を始めて少しだけ仲良くなった人達と話したりしていたのでサボっていた分を取り返すべく孤軍奮闘している
今後このブログではインタビューした内容について書いていこうと思う
他人と話している時の私はそこそこまともな人間をやれていると錯覚する事が出来るので
私はこの活動を完遂する事が出来るだろう


インタビュアーと揶揄されてからは開き直ってインタビュー活動と言うようにした
達成した時この活動を始める前と同様に何も変わっていなければ
その時は少年院と刑務所にもお邪魔しよう